祝祭の手袋
ルーヴェルの広場に旅芸人の幕が立った。ヴィルが話した興行で、鐘を鳴らす少年たちが町を回り、貴族や船頭の家へ案内札を配る。仮面を縫い合わせる仕事が足りず、ミラの工房にも注文が来た。テオは銀糸の花を縫う役目を任され、初めて夜遅くまで働く。
初日の催しでは、黒い手袋をした役者が広場へ登場した。彼は杖の先で地面を叩き、群衆から宝石を奪う悪王を演じる。子供たちは笑いながら逃げ、後から出た白衣の役者に拍手を送った。シオンは観客の後方で、自分も同じように笑われたことを思い出す。
開演前、広場の水売りは客の列に小さな杯を配り、衛兵は逃げ道を塞がぬよう柵を動かした。役者は白衣の剣士の兜が大きすぎると言い、裏方が紐を短く結び直す。芸人たちが争っているように見える舞台裏には、客を怪我させぬ約束がいくつもあった。テオは重い衣装を運び終えると、自分の刺繍が表からどう見えるか確かめたが、明かりの位置で銀糸はほとんど光らなかった。彼は悔しそうに針を取り、次の公演までに襟元を直すと師匠へ告げた。ミラは無理をしない範囲で試すよう言った。
演じる者は刃を振るっても人を傷つけず、恐れさせても終演の鐘で約束を解く。劇の悪王は大袈裟な声で降参したが、芝居小屋の裏では役者が手袋の裂け目を真剣に調べていた。幼い観客に剣先を引っかけぬためだ。シオンは舞台の仕組みを尋ねることもせず、その縫い目だけを長く見た。
終演後、テオが誇らしそうに自分の刺繍を指さした。近くにいた少女は花を綺麗だと言い、母親の手を引いて帰る。シオンの胸には、あれほど恐れられたかった印が、他人の細かな仕事によって一晩の思い出へ変わった奇妙な痛みが残った。




