道具を買う男
黒衣の青年を訪ねて、王都から来たという細身の商人が仕立場に現れた。名はヴィル。彼は五枚花弁の型を買い取りたいと申し出た。剣でも術具でもなく、ただの版木なのに、値段は幌の修理十件分を上回っていた。シオンが用途を尋ねると、男は祭礼の仮面に押して売ると言った。
見本として持参した仮面には、目の周りへ繊細な銀糸が通してある。花の形は似ているが、下の一本の茎が違う。シオンは自分の印が必ずしも自分のものではなくなったと知っていた。それでも売買の書面に、名の使い方を問わないと書かれているのが気に入らない。
商人は見本の仮面を机へ置き、花の輪郭を指でなぞった。薄い染料を重ね、灯の下では黒く、日中には紫へ見えるよう作ったという。手間の説明を聞くほどシオンは、その品が単なる模造でないと認めざるを得なかった。ヴィルは旅芸人の一座と長く取引し、破れやすい縫い目を少しずつ改めてきたらしい。怖さを売る商いにも、失敗を重ねた職人の時間がある。彼が代金を高く付けたのは印の伝説より、何十回も試した絹糸のためだった。
「怖がられるために使うものだ」と言うと、ヴィルは目を細めた。「怖がりたい客もいる。料金を払えば、安心して怖がれる」。一座の興行に合わせて仮面を作り、観客は公演が終われば笑って外すのだという。シオンはその一瞬の恐怖が羨ましかった。町では人を困らせてしか名を知られない自分より、見世物の仮面の方が上手に恐れを操っている。
契約は断ったが、商人は不機嫌にならなかった。別の花で売り出すと言い、帰り際に興行の日取りを残した。名を貸さなかったことで町に平穏が訪れるわけではない。銀糸の仮面は、いずれ別の意匠をまとって市場へ並ぶ。シオンはその夜、自分が恐怖と美しさを混同していたのかもしれないと、道具箱に肘をついて考えた。




