煤けた夜具
家主オルデは物置の屋根へ登り、雨漏りする瓦を数えた。自分の仕事場とはいえ危うい脚立だったので、シオンが下で押さえた。オルデは手伝いに礼を言わず、補修代を半分負担してくれと告げた。契約には、屋根は家主が直すと書いてある。シオンが指摘すると、老人は最初からそうだったか、と倉から書類を取りに降りた。
隣の舟大工は屋根の傾きが川からの風を受けるせいだと教えた。職人三人で瓦を一列ずつ外し、朽ちた板を替える。足元ではシオンの縫った袋が干され、窓には黒い外套が掛けられている。見上げた老人は、そんな衣を毎日着ると肩を傷めるぞとだけ言った。
オルデが取り出した契約書には、入居当時シオンが自分で書き加えた一行もあった。窓の改装は借り主が負担するとある。老人は老眼鏡を探し、指先でそこをなぞった。間違いを認めるのが苦手なのか、しばらく咳払いしてから、瓦代は自分が出すと言った。シオンも過去の金銭を蒸し返さず、戸締まりが甘い場所を一緒に確かめた。舟大工が余り板から作った楔を試すと、窓の音はぴたりと止まった。雨具を脱いだ職人たちは湯を飲み、次の修理の約束だけ残して帰った。
夜具まで煤ける雨漏りの部屋で、シオンは以前なら家主を脅して無償修理させただろうと考えた。実際、オルデが規定を知らないふりをして金を取ろうとした可能性はある。それでも契約書一枚を差し出せば済む争いで、自分の名を振り回すのは薄っぺらい。彼は補修代のうち、自分が取り付けを頼んだ窓板の分だけ払った。
屋根が閉じると、仕事場には久しぶりに乾いた風が通った。黒衣に染みついた湿気も、数日すれば抜けるだろう。夜、シオンは寝台の脚に噛ませる薄木を削り、揺れを直した。大きな野心を抱いた者にも、眠りを守る小さな仕掛けは必要だった。




