裁かれる黒花
町会の審問で、シオンは偽の閉鎖札を置いたことを認めた。魚屋は傷んだ品の代金を求め、乗合馬車の主人は払い戻しの記録を提出した。医師は往診が遅れた事実を述べたが、患者は快復しており、治療の結果まで被告に負わせるべきではないと証言した。
書記エダは証言を分け、損害の証拠がある分だけ記録した。シオンは罰金を支払い、さらに一定期間、公の掲示板へ近づくことを禁じられた。黒花の版木は証拠として一つ押収されたが、他の道具を奪う命令は出なかった。
法務書記は判決の文面を二度読み上げ、シオンが不服を申し立てられる期間も説明した。彼が名乗る美学に興味は示さず、荷車の主人へも同じ調子で話した。魚屋は店に戻って傷んだ桶を洗い、医師は次の患者へ向かう。審問は彼らの暮らしを一時止めただけで、終われば続きが待っている。シオンは黒花の版を一つ失ったことより、人が自分の悪名に一日しか時間を割かないことを強く意識した。
傍聴席にはサナが座っていた。彼女は工房の取引被害について問われ、直接の損失はないと答えた。ただ客が怖がった事実はある。シオンは彼女へ一度だけ頭を下げたが、返事はなかった。
審問が終わると、町の人々はそれぞれ用事へ戻った。黒花の男が裁かれたことより、明日の橋の工事がどこまで進むかが大切だった。シオンは誰にも引き止められず、役所の階段を降りた。
その夜、彼は自分の罰を紙へ写した。罰は屈辱だったが、名乗りの対価でもある。悪を目指す者が人から憎まれ、法に裁かれるのは当然だ。だが、自分を討つに値する英雄は、こんな小さな妨害の先には現れないだろう。




