黒い通行止め
夜明け前、南橋の入口に黒い板が立った。『本日、橋脚が崩れる恐れあり。通行を避けよ』。末尾には五枚花弁の印があり、公の署名はない。最初の荷車は立ち止まり、御者が衛兵を呼んだ。詰所が開くまで、後ろに列が伸びた。
バルトは橋脚を調べ、危険が急に増した形跡はないと判断した。通行止めの命令は出ていない。しかし群衆は板を見て不安になり、すぐには進まない。橋を信じるか、見知らぬ警告を信じるか。シオンの黒花が、初めて町の選択を割った。
荷車の列の中に、遠方から薬を運ぶ旅商がいた。彼は偽の板を見て躊躇し、北の渡し場へ回ろうとしたが、船の数が足りず引き返した。後ろでは魚桶の水を取り替える若者が、いつまで待つのかと声を上げる。板を読めない者は前の馬車の動きを見て止まり、事情を知らず不安だけ受け取った。シオンは橋から離れた場所でそれを見つめた。文字を読まない人まで、自分の作った不確かな警告へ従わせたのだと知った。
市場では魚屋が困り、北岸の医師が往診に遅れた。迂回路を使った荷車は泥に嵌まり、通行を助ける人手が取られる。シオンは橋の上流からそれを見ていた。予想より大きな混乱に、胸の奥が震えた。
彼は板を立てる時、誰かが足止めされることを知っていた。実際に困る顔を見るまで、どこか遠い出来事に思えていたのだ。だが悪を望んだのは自分であり、知らなかったふりはできない。
昼前、町会が正式な安全確認を終え、橋は通れると告示した。人々は急いで仕事へ戻る。黒花の板は証拠として回収され、バルトは周囲の足跡を記録した。シオンは一度も名乗らず、町の流れの中へ紛れた。




