橋の閉鎖札
南橋の補修が長引き、町会は一夜だけ通行を止めると発表した。日時はまだ決まっていない。石工組合は雨天なら延期し、北門の業者は荷の迂回路を準備するよう求めた。橋が町の暮らしを支えることは、誰もが知っている。
シオンは詰所の掲示板に置かれた予備の閉鎖札を見た。薄い板に朱の印を押し、決定した日時を書くだけの道具だ。衛兵が使えば皆が従い、偽物を出せば町の流れを乱せる。彼は自分の花と公の印が、どれほど違う力を持つか考えた。
役所の用具係は、古い閉鎖札を倉の奥で保管していた。橋が崩れた冬の札には日付と責任者の名が残り、裏側には雨水の染みがある。シオンは修繕用の木材を届けた時、その古い板を見せてもらった。人を動かすのは文字だけではない。いざという時に責任を引き受ける名前があるからこそ、町は警告を信じる。彼はそれを理解したうえで、自分の名前だけを使う板を作ろうと決めた。役所の印を偽造しないことを免罪符にはできないと、作る前から分かっていた。
石工の親方は、橋脚の補修は急がないとならないと説明した。だが突然閉じれば市場へ運ぶ魚が傷み、医師の往診も遅れる。作業の段取りは、危険を減らすだけでなく人の暮らしを途切れさせないために組まれていた。
シオンは板の寸法を覚え、工房の余り木を切り出した。誰かを守るためではない。皆が信じる札を別の名で掲げた時、どれほどの目が自分へ向くか知りたかった。
夜、彼は模造した板に黒い花を押した。役所の印は真似せず、書くのは虚偽の通行止めだけにする。自分の名で恐れを売る。後戻りできる時点で何度も手を止め、それでも板を捨てなかった。




