広場の影絵
町の秋祭りに、旅芸人の一座が来た。広場の幕には巨大な竜と魔術師の影が映り、子供たちは椅子から身を乗り出した。シオンは演目の終わりに現れる黒衣の悪王を見て、思わず拍手した。悪王は炎を吐かず、長い沈黙の後で一言だけ命じる。その間に観客の笑い声が消えた。
公演後、シオンは影絵師のアーデに近づき、どうすれば人を恐れさせられるか尋ねた。アーデは幕の裏へ招いた。悪王の影は薄い木板に過ぎず、遠近をつけるのは灯の位置だった。「見せたいものを大きくすると、隠したい手も目立つよ」。彼女は板を少しずらし、悪王をただの細い人形へ戻した。
シオンは衣装を見直した。襟が高く袖が広いほど、実際の動きは鈍る。影を作るには姿だけでなく、周囲の光や人の視線まで要る。彼は簡単な幻灯具を買い、小屋で練習を始めた。
広場では旅芸人たちが翌日の雨に備えて幕を乾かしていた。一座の若い笛吹きは喉を傷め、代役探しで大忙しだ。観客が受け取った恐怖も、裏側では数えきれない小仕事に支えられている。
影絵師は使い古した幕のほつれを自分で縫っていた。シオンが手伝うと、針を持つ指の速さを見て職人だと見抜く。「見せ物が好きなら、後片付けも覚えなよ」。一座の馬丁は馬の蹄を調べ、若い役者は昨日の失敗した台詞を練習している。観客がいない時間にも、旅芸人の暮らしは途切れなかった。彼は一瞬、自分が望む舞台にはこうした裏方がいるのかと考えた。
帰り際、アーデは「人を怖がらせたいなら、あとで眠れる場所も考えて」と言った。舞台が終われば観客は家に帰る。その境目がない恐怖について、シオンはまだ考えたことがなかった。




