誰の命令か
関税を巡る町会は三日続いた。商人たちは荷を返せと言い、税役所は誤った徴収分の返金方法を探した。王都へ早馬が走る一方、北辺の宿駅では代替の靴を縫う仕事が増えた。シオンが望んだ恐怖はまだ生まれず、代わりに手続きと交渉が増えていった。
リュシアは二通の命令書の紙質を比べ、正規の印を持つ方が後から書かれたと見抜いた。しかし古い方も、以前は正式に存在した命令の写しだった。書記は廃止の通知を受け取っていたのに、税収の不足を恐れて古い命令を使い続けた。上官の暗黙の承認もあったらしい。
シオンは書記が公衆の前に立つ姿を見た。男は震える声で認め、徴収した金が既に橋の修理に充てられたと告白する。怒号が上がったが、橋を壊して金を返すわけにはいかない。町会は王都から一時貸付を受け、数か月で返還する案を採った。
「悪というものは、もっと鮮やかであるべきだ」。シオンは屋根の下で呟いた。ネラは手帳を閉じ、「汚い仕事ほど地味なんだよ」とだけ言う。
町会は立替金を巡り、王都への利息の支払い方法でさらに揉めた。商人の代表は一律の増税に反対し、橋の近くの商店は利用者が負担すべきだと主張する。リュシアは異なる案を三つ書き出し、どれにも不利益があると告げた。その場では決めず、各組合へ持ち帰らせる。誰かの一声で終わらぬことが、制度の鈍さであり強さでもあった。
その晩、リュシアは王都へ報告書を送り、オルフの隊商は予定より遅れて北へ出た。町の人々はそれぞれの勘定へ戻る。シオンだけが、誰かを辱めれば終わると思った争いが終わらず、延々と続く責任の鎖に苛立っていた。




