↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪の美学――染物師の弟子は、最高のヴィランを目指す  作者: 竜太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/192

印章の古い傷

ネラが王都の印章を照合したところ、命令書の端に小さな傷があった。古い版を使っているだけではない。二年前に廃止された印章を、誰かがわざと押している。シオンは夜のうちに税役所の裏に回り、命令を受け取った書記の机を調べた。

窓の鍵は簡単に外れた。だが書記の机には自宅から持参した小さな薬袋が置かれ、咳のひどい娘への処方が書いてあった。彼は少し立ち止まる。罪を暴く相手にも家がある。当たり前のことだが、黒い外套で忍び込んだ夜には妙に邪魔な事実だった。

引き出しには、もう一通の命令書があった。こちらには新しい印があり、辺境向けの荷は関税を免除すると明記されている。古い命令と逆の内容だ。書記が二通を受け取り、都合のよい方だけ通したらしい。シオンは二通とも持ち去った。

翌朝、税役所の扉へ複写を並べた。町会で騒ぎが起こる。書記は上官の指示だったと言い、上官は書類を見ていないと答えた。監察補佐官リュシアは誰か一人の首を切る前に、受け渡し記録の照合を命じた。

窓際に積まれた書類の中には、橋の掃除人が提出した請求書まで混じっていた。水漏れを直す予算の不足は、誰かが紙を動かしただけでは回復しない。書記の娘は毎晩、父の帰りを待っているだろう。シオンは薬袋を元の位置へ戻した。逡巡はあった。だがそれは相手を許すという意味ではなく、何を奪うか自分で決めたいという意地だった。

シオンは瓦屋根の上でその騒ぎを眺めていた。書類を表に出したのは彼だが、どちらの命令が本物かまだ証明できていない。今日の自分には、真相よりも騒ぎそのものを欲しがったところがある。それを認めると、夜風が少し冷たく感じられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。