丘の見張り
北の丘で古い見張り台が壊れ、バルトは修理の人員を募った。夏の雷雨が近づき、周囲の林から煙が上がっても発見が遅れる恐れがあった。町会は石材を出し、畑の持ち主は道を貸した。作業には軍の許可も必要だった。
騎士候補生エルクの訓練隊が偶然立ち寄り、木組みの補助を引き受けた。若い候補生たちは最初こそ剣の話をしていたが、すぐに重い梁を運ぶ仕事に追われた。エルクは靴の麻紐を固く結び、谷側の杭を確かめる。
見張り台の梁には、古い火事の年を刻んだ傷があった。工事を指揮する老人はその火で兄を失い、以来毎年台の様子を見てきたという。エルクは作業の後、その話を黙って聞いた。訓練隊の若者も顔を引き締め、帰る前に水桶の位置を確かめた。シオンは離れた草地から彼らの姿を見る。守ることを当たり前に続ける者は、悪の挑発に乗るためだけに生きていない。その事実に、妙な羨望と尊敬が混ざった。老人は最後に新しい梯子を登り、遠くの林が見えることを確かめた。
シオンは離れた場所で見ていた。悪を名乗る者が火を放てば、あの若者たちは迷わず駆けつけるだろう。守る理由はまだ大きな理念ではなく、そこに家と畑があるからだ。だからこそ、その判断を奪いたくなった。
工事の後、エルクはバルトへ報告書を渡し、南へ出発した。シオンの姿に気づいたが、声はかけなかった。若者には訓練の時間と明日の道程がある。黒衣の男と話す必要はなかった。
夕暮れ、修理された見張り台に小さな旗が上がった。シオンは火を放つ想像を振り払い、代わりに旗の下で働く人の数を数えた。悪として人の前へ立つなら、彼ら全員の判断と向き合うことになる。




