盗まれた祭りの名簿
夏前の祭りの支援名簿が、町会の机から一晩だけ消えた。数日後には戻ったが、寄付をした商人の名と金額が別の紙に書き写されていた。祭礼係の老婆は、町外へ売られれば商売の邪魔になると怒った。町会は保管場所を移した。
シオンは犯人の心当たりを求められた。彼が紙の恐ろしさを知っているからだ。名簿にある寄付額は、信用を測る材料として勝手に使われる可能性がある。多額の寄付をした者はもっと出せると思われ、少額の者はケチだと噂される。
町会の職員は名簿の保管を巡って意見を割った。鍵を増やせば会計を調べる人が困り、公開すれば寄付者に迷惑がかかる。ネラは帳面を二つに分け、会計監査用と一般向けを作る案を出した。寄付の使途は誰でも見られるが、個人の額は必要な係だけが知る。シオンはその工夫を聞き、自分なら秘密を握った人間を脅す方が簡単だと考えた。その容易さを知ってなお、手を出したい衝動は衰えなかった。
ネラは名簿の写しが流れた商会を調べ、町会の元職員が関わった可能性を見つけた。男は金を貰って情報を売ったのではなく、自分も寄付を集める活動へ使うつもりだったと説明する。善意でも無断なら被害が出る。
シオンは誰かの名簿を盗むことに、以前とは違う感触を覚えた。剣を抜かなくても、他人の誇りや秘密を握れる。その力を、自分の手で試せばどうなるだろう。
祭礼係は寄付の公表方法を変え、金額を載せず希望した者の名だけ残すと決めた。夏祭りの準備は止まらない。盗まれた名簿を取り戻すより、人々が来年も寄付できるようにする方が仕事として大切だった。




