訴状の白い封
地主からの損害請求は、王国の町にも届いた。公領で流した虚偽の噂により契約を失ったとして、金貨二枚と銀貨数枚の補填を求めている。シオンは封筒を開き、予想より小さな額に失望しかけた。人を恐れさせる代価としては、払えてしまいそうだった。
ネラは訴状を読み、額の大きさで善悪を測るなと言った。金が戻っても事業の信用はすぐには戻らない。彼が望む悪の格が何であれ、被害を受けた者の都合を消せない。
古本屋には旅する教師が立ち寄り、古い王の記録には勝者の誇張が多いと話していた。シオンは反論しかけ、好きだった悪王の伝記を別の記録と照らし合わせていないことに気づく。教師は敗れた王にも税を集める役人や飢えた兵士がいたと教えた。名の残った者だけが世界を動かすわけではない。シオンは新しい本の値札を見て、数十年後に自分の名を記す人が現れるなら、その人は誰の証言を拾うだろうかと考えた。
法務書記エダは裁判の場所を説明し、公領側の書類を求める手続きを示した。シオンは自分の言葉の記録に署名する。初めて盗みに入った頃は、紙に記されることが恐怖の証拠だと思っていた。今は、誰の損失を誰が負担するか決めるための道具だと分かる。
帰り道、古本屋の主人が、悪王伝の新しい写本を入れたと知らせた。シオンは頁をめくり、残忍な王が終盤で失政によって味方を失う箇所を読んだ。小さな訴状を読んだ後では、その孤独が妙に現実的に見える。
彼は本を買った。美しい悪は敗北するべきだと、以前より確信している。ただ、敗北を語る古い本には、王に踏まれた畑や失われた家の名がほとんどない。その欠落を、自分ならどう記憶されるのだろうと思った。




