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悪の美学――染物師の弟子は、最高のヴィランを目指す  作者: 竜太郎


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帰らぬ工房の鍵

ルーヴェルの共同工房は、シオンが出た時と同じ場所にあった。しかし戸の鍵は新しくなり、看板には三人の名前だけが書かれている。サナは開けた戸口で彼を迎え、長旅の様子を短く尋ねた。「共同の契約、見直したの」。ケルが机から紙を出した。

彼が不在の間に注文は増え、三人は別の職人を一人雇った。シオンの持ち分は残るが、工房を維持するための決定権は減らすという。勝手に取引先を脅した過去が理由だった。彼は口を開きかけ、その説明が正しいと理解して黙った。

リナは昼の休憩にパンを半分残し、夜に弟へ持って帰ると言った。家では母親が病後の静養をしており、働く者が少ない。シオンは新入りが自分より切実な理由で仕事場へ来ていると知った。彼女の技術を羨む気持ちはある。しかしその席を奪うため工房へ戻るのは、悪の美学ではなく子供じみた意地に過ぎない。道具箱の留め具を締め直す音が、静かな部屋へ響いた。

新しく入った職人はリナという若い女で、荷車の覆いを直す技術に長けていた。彼女はシオンの悪名を知らず、慣れた手つきで針箱の位置を教えた。仕事では新入りなのは自分の方になっている。

シオンは持ち分の一部を売り、道具箱だけ借りて部屋を出た。サナは慌てて引き止めなかった。「辞めたいなら止めない。でも約束した納期は守って」。彼はその言葉を聞き、来週の納品だけは引き受けた。

夕刻、水車が回る窓辺で一人革を裁ちながら、シオンは共同工房で過ごした日々を思い返した。彼らは彼を理解しなかったのではない。理解したうえで、自分たちの仕事から遠ざけたのだ。その判断を覆すために脅すことはできる。しかしそうすれば、彼らが恐れる理由まで証明してしまう。

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