領主館の小会議
水車の争いを受け、公領の小会議が開かれた。代官、農民の代表、地主の代理人、巡察官がそれぞれ意見を述べる。王国から来たシオンは当事者として廊下で待たされ、扉の向こうの声を聞いた。話し合いは長く、昼を過ぎても結論が出なかった。
地主は契約の自由を主張した。村人は代替手段のない水車で条件を上げるのは不当だと訴える。フェルマは昨年の収穫記録を示し、追加徴収が続けば種麦まで失われると説明した。代官は領内の製粉を止めないための暫定命令を検討する。
会議室の壁には昔の洪水の高さが刻まれていた。何十年か前、この地方の川は村の半分を呑み込み、それ以来水車には非常時の開放義務がある。地主の代理人はその義務を承知しながら、平時の料金だけを強調した。フェルマは石壁の印を指し、公の規則が人の命を守るために生まれたことを忘れるなと述べた。シオンはその言葉に耳を傾け、自分が壊そうとしたのは一件の取引ではなく、長く積まれた信用でもあったと知った。
シオンは呼ばれ、噂を流した理由を改めて問われた。彼は飾らず答えた。「恐怖を欲した。それだけです」。会議室の空気が冷たくなる。誰かが頭がおかしいのかと小声で言った。シオンは初めて名乗りの意味を相手に届かせた気がした。
しかし議員たちは彼の告白に時間を使わず、契約と水車の再開へ話を戻した。村の粉を挽く仕事が優先された。彼の悪は議事録の一項目に収まり、中心にはならなかった。
夕方、暫定命令が出た。水車は以前の条件で稼働し、正式な裁定は収穫後になる。村人は急いで麦を運んだ。シオンは領主館を出て、誰かが自分を恐れたかよりも、恐れだけでは世の仕組みが折れないことを考えていた。




