領主の庭の門番
中央町の領主館には、美しい花を育てる庭があった。見学の日、門番は市民に入場札を配り、子供にも花壇へ入らぬよう丁寧に説明した。シオンは黒い外套をまとい、広い階段の上から町を見下ろすつもりで出かけたが、門番に荷袋を預けるよう求められた。
館内では植物を世話する老園丁が、枯れた枝の切り方を教えていた。珍しい青い花は、上から見える場所ではなく日陰の水場に植えられている。美しさを見せるためだけなら、もっと分かりやすい場所があるはずだとシオンは尋ねた。
庭には貴族の客だけでなく、薬草の育て方を習いに来た村の婦人もいた。園丁は地面の湿りを触らせ、葉が青いからといって水を足し過ぎるなと教える。シオンは華やかな花ばかり見ていたが、小さな苗には同じ数の手間が掛かっている。見せびらかすための悪と、人が長く恐れる悪。その違いを知りたいと思ったはずなのに、誰かを怯えさせる瞬間へばかり心が傾く。庭の静けさは彼に、自分の未熟さをはっきり突き付けた。
老園丁は、そこが一番よく育つからだと答えた。誰かの眼を喜ばせるために植えるより、花が生きる場所を選ぶのが自分の仕事だという。シオンは噛みつけなかった。自分が夢見る花は、人が傷つく場所を選んで咲こうとしている。
庭の奥で、領主の幼い娘が転んだ。護衛は走ったが、子供は自分で立ち、汚れた膝を見て笑った。誰も大げさに英雄扱いしない。シオンは一瞬、子供を怖がらせて館内の空気を変えたい衝動を抱いた。
彼は動かなかった。代わりに手荷物を受け取って門を出る。何も起こさぬまま庭を去ったことを、勝利だとは思えない。胸の奥に芽生えた衝動を、今度こそ誤魔化すこともできなかった。




