届けられた薬箱
イルダの運搬隊は、予定より二日遅れて公領の中央町へ着いた。薬師組合の倉庫で荷を降ろすと、箱の数は揃っていたが、数瓶の封が緩んでいる。薬師は受け取りを保留し、品質試験の結果を待つと言った。荷主は急ぎの患者がいると抗議したが、危険な薬を渡すわけにはいかない。
シオンは革でできた箱留めを直した。どこで傷んだか分からぬまま運送隊だけが責められないよう、イルダは道中の雨と関所の記録を提出する。事故の原因は包装の設計にある可能性もあった。薬師は箱を作った職人へ問い合わせた。
薬師組合の若い職員は、封の緩んだ瓶を使えないことを残念がっていた。病院では薬が足りず、祖父の治療を待つ家族がいる。けれど試験を省いて配れば、同じ家族を危険にさらすかもしれない。職員は余った薬草で代わりの処置ができないか先輩へ相談した。イルダもその声を聞き、荷主へ詳しい説明を送ると決めた。シオンは輸送した箱を一つずつ確認し、壊れた留め具に自分の印を残さなかった。
中央町はルーヴェルより大きく、商人が行き交う通りには公領の紋章を掲げた家々が並んだ。シオンの黒衣は煤に汚れ、旅の埃が袖へ残る。すれ違う者の中には振り向く人もいたが、名を尋ねる者はいなかった。
イルダは帰りの隊を整え、シオンへ報酬を払った。「次も雇うかもしれない。荷を脅さなかったからね」。彼は冗談と分かったが、笑う気にはなれなかった。自分の名が仕事を減らさずに済んだことを、誇るべきかどうか分からない。
夕方、試験に合格した薬瓶が病院へ送られた。待っていた薬師たちは胸を撫で下ろす。シオンは宿の窓から街道を見て、次の朝に帰るか、知らぬ町へもう一日留まるかを考えていた。




