二人の巡察官
公領の農地を巡る二人の巡察官が、宿に泊まった。年長のベイルは収穫予測の記録を重視し、若いフェルマは農民から直接話を聞こうとする。二人は昼間から言い争っていたが、どちらも農地の水不足を解決したかった。
シオンが帳付けの手伝いを申し出ると、ベイルは公的な書類を他領の者へ見せられないと断った。フェルマは宿の外で畑の話ならできると誘う。シオンは何かを隠しているのではと疑ったが、二人は単に職務の線引きが違うだけだった。
フェルマは村人へ、水番の不正を見つけたら一人で詰め寄らず共同の帳面に残すよう勧めた。ベイルは数字の改竄を防ぐため、毎日の締めに二人が署名する方法を提案する。農家の女は忙しくてそんな時間がないと抗議し、翌朝の水番が代わりに記録すると決めた。制度は机の上だけで完成しない。シオンは異なる声が寄り集まる様子を見て、命令一つで従う群れとは違うしぶとさを感じた。
畑を歩くと、同じ村でも土の乾き方が大きく違った。上段の畑は先に水を使い、下段は夕方まで待つ。水番の老人は順番を守るよう命じても、雨が降らない年には破られるとこぼした。フェルマは争いを記録し、用水を分ける木板の改善を提案した。
ベイルは記録から、去年の水配分の誤差が大きかったことを見つけた。二人の方法は違っていても、数字と声を合わせれば事情が見えてくる。シオンは、相手を黙らせる以外に人を動かす方法がいくらでもあると、また知る。
その夜、彼はフェルマから、公領の奥では盗賊より納税記録の消失が恐れられていると聞いた。災害が起きた村ほど、証明できない所有地を奪われやすいからだ。シオンは荷袋の底にある偽の告発状を思い出し、紙の持つ刃の鋭さを確かめた。




