古い王の石像
サーヴェンの街道に面した広場には、昔の王の石像があった。頬は欠け、剣先には鳥が巣を作っている。イルダは馬を休ませる間、隊の若者たちへ王の名を教えた。隣国と争って領地を増やしたが、飢饉の年に穀倉を開いた人物だという。
シオンは広場の碑文を読んだ。勝利した戦の数は刻まれているのに、敵方の村の名は一つも残っていない。英雄の名を残すというのは、他人の生きた場所を石の裏へ追いやることでもある。
町の石工は、剣先の巣を取り払わずに周囲の石を補修した。鳥の子が飛び立つまで作業を待つと決めたのだという。広場の商人は工期が延びることを嘆いたが、教師は子供たちに巣をそっと見るよう勧めた。昔の王が命じた戦争と、いま石の上に生きる小鳥は何の関係もない。それでも同じ場所を占めている。シオンはその無頓着な生命の続き方に、石より長く残るものを見た気がした。
石像の向かいにはパン屋があり、女主人は見物客へ小さな菓子を売っていた。彼女の祖先はその王の征服した村から連れて来られたという。それでも今は石像を撤去したいとは思わない。「これを見て、知らない子に昔の話をするから」。彼女の声に恨みはなく、忘れる気もなかった。
午後、町の教師が石像の周りを清掃する子供たちを連れて来た。教師は王を褒めるだけでなく、戦で焼けた畑のことも教える。シオンはその様子に足を止めた。記憶されることは、自分に都合のよい姿を保つことではないらしい。
広場を去る前、彼は欠けた石の頬を指でなぞった。美しい悪を名乗るなら、誰かが自分の醜い行いまで教える日を受け入れなければならない。英雄に討たれる瞬間だけを選べるなど、そもそも思い上がりではないか。




