領境の石標
サーヴェンの領境には、二つの紋章が刻まれた石標が立っていた。片面は王国の古い槍、もう片面は公領の三本杉。石標が風雪で傾き、どちらの農地を誰が見回るか、春になるたび争いが起きる。役人たちは古図を並べ、境界の線を何度も引き直していた。
イルダの隊は通行のため半日待たされた。農夫たちは草刈りの時期を逃したくなく、税役人は新しい境界を認めると徴収先が変わるため慎重だった。剣を抜く者はいないが、それぞれの利害は鋭く食い違う。
石標を調べた測量師は、二つの村で使う長さの単位が僅かに違うと説明した。どちらも昔からの慣習で、間違いだとは言い切れない。新しい綱で測れば数字は揃うが、昔の約束をどう扱うかが残る。農夫たちは相手の村の人と一緒に杭を打ち、土の具合を確かめた。争いながら隣の畑を耕す手もある。シオンは二つの紋章を眺め、一枚の地図が人の記憶をどこまで置き換えられるのか考え込んだ。
シオンは石標の傾きを直す道具を貸した。だが役人は勝手に直すなと止めた。石を動かせば、誰かが境界を変えた証拠になる。職人の手で直せる傷と、政治の手続きでしか直せない線がある。
夕方、隣り合う二村の代表が土地の管理だけ先に共同で行うと決めた。税の帰属は保留し、草刈りの人件費を折半する。解決ではない。雨季までにどうしても決めなければならない仕事を残さないための約束だった。
シオンは石標の陰に腰掛け、長く続く争いを見た。誰かを一度脅すだけなら簡単だ。しかし境界の石を恐れさせても、畑は翌年また芽を出す。自分が一生の終わりまで残すべき悪とは、人の営みを越えて何かを変えるものだろうか。




