乾いた井戸の役人
サーヴェン公領の端にある村では、井戸の水が細くなっていた。村長は領主の代官へ浚渫費を求めているが、代官は春の橋を直す予算を先に使ったという。イルダの運搬隊は水の補給を断られ、村外れの浅い流れで馬を休ませた。
シオンは村長の話を聞き、代官を脅して金を出させれば済むと考えた。だが井戸の底には隣村へ通じる地下水脈があり、無理に掘れば二つの村とも枯れる恐れがある。水師が調べに来るまでは、費用があっても手を付けられない。
村の広場には、雨が降れば水を溜める石槽が三つあった。古い槽の底は割れ、修理用の砂も不足している。子供たちは順番を決めて桶を運び、年寄りが持ち上げられない分を若者が手伝った。水不足は代官一人の失策ではないが、指示が遅れた責任は消えない。シオンは槽の縁に残った指の痕をなぞり、誰かを恐れさせるより多くの人を働かせる現実を知った。馬を休める短い時間さえ、村の一日は止まらなかった。
代官は嫌われ者だった。出費を渋り、農民を役所で長く待たせる。それでも水師を呼ぶ手配はしており、馬車の賃金を自腹で先払いしていた。村長は代官を信用せず、住民の手で雨水を集める樽を増やした。
夕暮れにシオンが見たのは、役人と村人のどちらも相手を頼らぬよう工夫する姿だった。誰も一人では水を生み出せず、悪人を一人打ち倒しても井戸は満たされない。
夜、村の子供が旅人へ小さな水差しを持って来た。イルダは受け取りを断り、残った井戸水を村で使うよう促した。シオンは背負っていた革袋の水を子供へ渡した。相手は礼を言い、すぐ母親の元へ走る。後には乾いた土の匂いだけが残った。




