↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪の美学――染物師の弟子は、最高のヴィランを目指す  作者: 竜太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
134/168

北行きの帳付け

公領へ向かう運搬隊が、町を出る前に帳付けの手を探していた。荷主は十人、荷は薬瓶と絹糸と種麦。関所が二つあり、品目ごとに通行の印を取り直す必要がある。ネラは多忙で同行できず、読み書きと革紐の修理ができるシオンを推薦した。

隊長のイルダは黒い外套を見るなり、荷を飾りに使わないこと、途中で勝手に離れないことを条件に出した。シオンは脅すつもりなどないと笑ったが、イルダは表情を変えない。彼の過去の処分を知った上で、仕事の腕だけを買うという。

イルダの隊には帰郷を急ぐ少年の御者もいた。妹の婚礼までに報酬を届けたいと言い、休息のたびに出発をせがむ。隊長は急がせず、馬の蹄鉄を一つずつ確かめた。「道中で一台壊せば、その子の金も遅れる」。シオンは荷の予定表に余白を作り、遅延が生じた時の連絡先を書き足した。帳簿を仕上げることに誇りは感じる。それでも胸の奥には、もっと恐ろしい仕事を選べる自分でありたいという焦りがあった。

契約は六日間の予定だった。帰還が遅れた場合、共同工房の納期をどうするかが問題になる。サナは反対せず、代わりの職人を探せと告げた。ヴェグは腰を痛めた兄を呼び、ケルは賃金を日割りで計算した。誰も見送りの言葉を言わなかった。

夜、シオンは宿帳の余白に北行きの荷を列記し、黒花の木版を袋へ入れた。町を離れた先では、自分の名を知る者はいない。世界は再び最初の橋のように広く、黒衣も見知らぬ若者の服でしかなくなるだろう。

出発の朝、ネラが印の違いを書いた小さな紙を渡した。各関所には別々の権限があり、同じ王国でも決裁の人間は異なる。シオンは紙を読んで頭を下げた。隊の馬が鼻を鳴らし、川沿いの道には小雨が降り始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。