公領からの空箱
サーヴェン公領の商人が運んできた木箱は、中身を抜かれたまま雨に晒されていた。届け先はルーヴェルの薬種商。箱が傷んだため払い戻しを求められ、運送人は責任を押し付けられた。箱の中で割れた瓶が薬草を汚したが、どの宿駅で起きたかは分からない。
ケルが記録を読み直すと、二つの宿駅で同じ時刻に荷が受け渡されたことになっていた。シオンは運送人の頼みで、箱の角を修理しながら釘の種類を調べる。北の釘と南の釘が混ざっている。荷が一度開けられた証拠にはなるが、盗みとは限らない。
送り状には雨の跡があり、文字の一部が滲んでいた。商人は荷の価値だけを気にしたが、運送人にとっては信用が商売のすべてだった。検疫係の署名が見つかれば、誰も盗人と呼ばれずに済むかもしれない。ケルは濡れた記録を乾かすため、薄い紙を挟んで重しを載せた。シオンはその手つきを見て、壊れた箱より傷ついた評判を直す方が厄介だと考えた。しばらくして薬種商は、遅れた患者への説明を先に書き始めた。
薬種商は開封の理由を知りたいと主張し、運送人は他人の検査へ従ったと答えた。境界の検疫係は最近、熱病の噂に神経を尖らせている。荷を調べてから急いで打ち直したのなら、釘の違いも説明がつく。
シオンは事情を知らずに誰かを脅すところだった。悪にふさわしい相手かどうか調べる仕事ばかり増え、動けない自分が滑稽に思える。それでも、間違った相手を恐れさせれば笑われるのは黒花の方だ。
夕暮れ、検疫所から封蝋の剥がれた写しが届いた。開封は正規の検査だったが、遅延の通告が忘れられていた。薬種商は賠償を一部取り下げ、検疫係へ苦情を送る。木箱の修理代だけが工房の収入になり、シオンは北の街道図を机へ広げた。




