検査を終えた灯
術師リスベルが試作した港の航路灯は、三か月の試験を終えた。風雨で灯が消えないこと、反射板と組み合わせれば魔力が薄い夜にも位置を示せることが確認された。ただし固定具は潮気で腐食し、年に一度の交換が必要だ。町会は費用を検討し、まず危険な曲がり角に二基だけ置くと決めた。
リスベルは選定会議で、魔術そのものを褒める声に困った顔をした。「仕組みを作っても、直す人がいなければただの高い飾りです」。鍛冶屋が交換具を示し、船頭は高さを下げるよう頼んだ。提案は図面へ書き込まれ、次の試験の予定が決まった。
設置を手伝った鍛冶屋は、金具が朽ちる時期を予測できないと言った。だから取り外しやすいねじを選び、予備の部品を舟小屋へ置く。初めから完璧な光を作れるとは、誰も考えていない。リスベルはその話を聞き、魔力を少なくしても交換作業が楽な方を選んだ。シオンは術師が自分の力を誇るより、他人に直してもらう道を残すことに不思議な強さを感じた。
外出制限の終わったシオンは設置の仕事を手伝った。金具を磨き、取り付ける紐の縫い目を確かめる。昔は魔術の眩しさを望んだが、いまは光が誰の判断でどこを照らすかが気にかかる。自分が恐れを広める時にも、器だけ整えても意味はない。
港の端ではロマス商会の元従業員が、新しい仲介所で働き始めていた。賃金は以前より明らかになったが、仕事の早さを求められる点は変わらない。管理する者が変わっても、疲れた人の足は同じ舗石を踏む。
灯がともると、川下から戻った小舟がわずかに進路を変えた。誰も拍手しなかった。安全になったことを確かめた船頭は、次の船を迎えるため桟橋へ歩いた。シオンは反射板の中に細く映る黒い自分を見て、光の仕事とは正反対の役目を望んでいると自覚した。




