候補生の靴紐
騎士候補生エルクの一行が再びルーヴェルに入った。訓練所から王都へ戻る途中で、橋の補修状況を確かめる用務があった。エルクは隊列の後方を歩き、荷車が跳ねるたび車輪の留め具を見ていた。前年の冬に補給が滞った記録を、彼はまだ持ち歩いている。
町の道具屋で新しい靴紐を買った。古い紐は峠の巡察で何度も濡れ、すぐ切れるようになったからだ。店主は高級な絹紐を勧めたが、エルクは滑りにくい麻を選んだ。店の奥には、北辺から戻った兵の傷んだ靴が修繕を待っていた。
エルクの同行者は、剣の鍔が荷車の木枠へ当たるたび嫌な顔をした。壊れた鎧は修理できても、輸送途中で失った薬は取り返せない。エルクは先輩に言われ、剣帯を短く締め直した。誰かを守る訓練の半分以上は、危険を起こさないための小さな習慣だった。シオンはその地味さに驚き、しかし嫌うことはできなかった。
シオンは外出制限のため昼に買い物をしており、偶然その店へ寄った。黒外套に気づいたエルクは礼をしたが、特別な言葉を求めなかった。彼が尋ねたのは、革紐が濡れた時の締め方だった。シオンは職人として答え、二人で試しに紐を引いた。
エルクは代金を払い、「北の峠には、まだ薬が届きにくい村がある」と話した。彼が剣を学ぶのは勲章を欲しがるからではなく、護衛の交代を滞らせないためだという。シオンはその実直さを聞きながら、英雄と呼ばれる日は来るのかと考えた。
店を出たエルクはすぐ仲間の荷車へ戻った。シオンは少しだけ追いかけたい衝動を覚え、立ち止まった。あの若者にはあの若者の職務がある。まだ誰にも英雄と呼ばれない彼を、自分の望みの中へ閉じ込めることはできない。




