拒まれた花
工房の玄関に、一枚の紙が吊られた。『個人の脅迫行為と当工房の取引は関係ありません』。署名したのはサナ、ヴェグ、ケルの三人だった。シオンには事前に知らせがなく、朝の客が紙を指差してようやく知った。
サナは、仕事を守るため必要だと説明した。「あなたを追い出したいんじゃない。あなたが誰かに何をするか、私たちは決められないから」。彼は理解した。理解したからこそ、胸に残った冷たさをどう扱えばいいのか分からなかった。
ケルは貼り紙の文字を何度も直していた。断罪するような文になればシオンが怒ると考え、かといって曖昧なら客が不安になる。最後に選んだ文面は冷たく見えたが、仕事を守る目的だけは伝わる。シオンは誰が書いたのか尋ねず、筆跡の癖からケルだと分かった。かつて一緒に覚えた帳簿の字だった。
その日の依頼は、学校で使う古い地図袋の修理だった。ケルは乾かした革を裁ち、ヴェグが取っ手を付け替えた。シオンが縫い目を仕上げると、届け先の教師が喜んで代金を払った。四人の印ではなく工房の名前で領収書を出した。
夕食の前、ヴェグは自分の父がかつて偽の徴税札に騙され、三冬分の蓄えを失ったと話した。「悪の名を聞くたび、誰かの家の戸が叩かれる」。シオンは、自分はそんな詐欺師ではないと口にしかけた。だが脅迫状を書いたことまで違うとは言えない。
夜、三人は翌月の材料費を計算した。シオンは話し合いに残ることを許された。紙は玄関で揺れ続けている。自分の花を拒む場所にも、働く手と帰る場所がある。彼はそういうものを踏み越えなければ、本当の悪党になれないのかと考えていた。




