新しい港の規則
港務官は倉庫の割当てを公開抽選に変えた。大口商人には不評だったが、空き枠を借り占める手口を防ぐためだ。抽選に使う木札は町会の職員が毎朝数え、署名済みの記録を市場に貼り出す。制度を変えた途端、船荷の到着を予測できなくなった小さな店も現れた。
ネラは店ごとの損失を聞き、定期便だけは優先枠にする案を出した。港務官はそれでは再び有力商人が枠を握ると警戒する。二人は激しく議論したが、夕方には試行期間を設けることで折り合った。どちらもロマスの一件を繰り返したくなかった。
抽選が初めて行われた日、小さな船の船主が当たり札を引いた。以前なら大商会の荷で埋まっていた桟橋を使えると喜んだが、積み替えの人手を確保していなかった。港務官は次の便へ権利を譲れる仕組みを検討し、組合は人足の手配を申し出た。公平に配っただけでは、荷は勝手に運ばれない。規則と現場の間には、まだ人の手が要った。
シオンはその会議を傍聴した。席の後方で、荷札に小さな印を押す役人の手元を見る。恐れたから人が動くのではない。確かめられる約束があるから人が動く。リュシアに言われたことを、別の場所でまた見せられている気がした。
会議後、港務官が声をかけた。「あなたも意見があるなら正式に出してほしい」。シオンは笑い、規則など破られるためにあると言いかけた。しかし書面には困っている舟番の名前が並んでいる。軽口で壊していい相手ではなかった。
取引所の外では風向きが変わり、上りの船が岸へ着けなくなっていた。舟番は抽選結果を待たず、夜の係留綱を増やした。制度の隙と天候の厳しさは別々にやってくる。シオンは黒衣の袖をたくし上げ、頼まれた綱を一本だけ引いた。




