花弁の数
黒い花の模様には、すでに三種類あった。シオンが彫った五枚花弁、ロマス商会が登録した七枚花弁、そして市場で売られる六枚花弁の縁起札である。版木屋の親方は、いずれも商売としてなら十分に需要があると言った。「本物と偽物を決めたいなら、まず何を売っているか決めな」
シオンは自分が何を売るつもりなのか、答えられなかった。恐れを売るのか、破滅を告げるのか、美しい悪の印を歴史へ残したいのか。その日は工房の道具箱を持ち出し、川沿いの空き倉に籠もった。
版木屋では古い紋章集が棚に置かれていた。三つ葉も八つ葉も、かつては家名や組合の約束を示したという。長い年月のうちに意味が変わり、今では祭りの紙飾りにしか使われない印もある。親方は「印を守るのは形じゃなく、使う人だ」と言った。シオンは自分の木版の欠けた端を撫で、使い手のいない印の行方を想像した。
三つの花を木片へ彫り直すうち、彼は五枚の方が不均衡であることに気づいた。一枚だけ花弁が短い。初めて彫った夜、刃先を滑らせた痕がそのまま残っていたのだ。均等に整えれば上等な商標にはなる。だが過去の拙さまで削れば、自分の手で選んだ最初の形も失う。
夕刻、版木屋の息子が端材を回収しに来た。少年は手元を覗き、五枚の花は踏まれても起きる野草のようだと言った。シオンはそんな意味を込めていないと答えた。少年は気にも留めず、残った木を束ねて去る。
翌朝、六枚花弁の札を売る露店に、祭りの飾りとして追加の注文が入った。黒い花の姿は持ち主の願いを離れて増えている。シオンは自分の版を袋へしまった。取り戻すためには、名を奪う者を一人ずつ追うだけでは足りないと悟った。




