鐘楼の修理札
春の大雨で鐘楼の上部にひびが入り、石工組合は修繕の札を配り始めた。初期費用は町会が持つが、灯台と橋にも修理が必要で、足場を組む順番が揉めている。北門のバルトは夜間の鐘が止まると巡回時刻を合わせづらいと訴え、河港の舟番は灯台の方が先だと言った。
シオンは石工の一人から、古い鐘楼の図を借りた。上へ通じる梯子と、音を大きくするための窓の位置。誰にも見えない場所から町中へ声が届くなら、自分の名を刻むには相応しい所だと考えた。けれど足場の下には、落石を怖がる洗濯女たちの通り道があった。
石工の親方は、鐘楼の石を叩く音だけで内部の空洞を測っていた。シオンが理由を聞くと、古い石は外側だけ丈夫に見えることがあるという。鐘を吊るす鉄輪の重さは、ひびの位置と一緒に考えなければならない。人が見上げる塔には、見えない場所を支える何十もの工夫がある。黒い影を立たせる場所として使うには、その重みを知る必要があった。
工事の日、若い石工が滑り、使っていた鑿を屋根へ落とした。家主は烈火のごとく怒り、組合は弁償を申し出る。シオンは屋根へ上がって鑿を拾おうとしたが、親方に止められた。足場の荷重を計らない人間を上げるわけにはいかないという。
仕方なく工房へ戻り、梯子の踏板に使う革の滑り止めを作った。採用を決めたのは親方で、代金は組合の帳簿から支払われた。シオンは領収書に黒花を描かず、ただ署名した。
夕方、鐘は一度だけ試しに鳴った。いつもより濁った音が町を渡り、祭りの準備をする子供たちが顔を上げる。シオンはその音に自分の声を重ねる想像をした。誰かの暮らしを止めるために鐘を鳴らした時、町はどこまで自分を許さないのか。考えるほど、その境界を試したくなった。




