銀の印を折る
七枚花弁の商標印は、商会の金庫から証拠として運び出された。小さな銀の印章で、押すたび紙へ細い筋が残る。シオンはそれを役所の窓口で見た。自分の木版よりずっと精巧で、しかも金に替えられる。腹立たしさの中にわずかな羨望があった。
審問でロマスは、夜警に支払われなかった金について説明を求められた。彼は下請けへ渡したと主張し、下請けは受け取っていないと証言した。記録は食い違い、町会は追加の調査を決めた。シオンは傍聴席で両者の声を聞き、相手を一晩で裁けない現実に歯噛みした。
休廷の廊下で、ロマスが近づいてきた。「あなたが本物なら、私の作った印を気に入るでしょう」。彼はそう言って笑った。シオンは相手の胸元へ手を伸ばし、護衛に止められた。銀の印章を折ってしまいたい。そんな幼稚な衝動に負けかけた。
休廷中、法廷の外では証人たちが互いに食料を分けていた。遠方から来た者の中には宿代が足りず、帰りの馬車を心配する人もいる。シオンはロマスが容易に崩れぬことへ苛立ちながら、訴え続ける側にも限界があると知った。いくら正しい帳簿でも、証言に来る人が飢えれば声は細る。
ヨエルはシオンを廊下から出し、不要な接触を避けるよう警告した。彼は承知して帰り、下宿で木版を削り直した。花弁を鋭くし、根元の線を一本足す。誰が見ても美しいかどうかは分からない。しかし模倣と違う意味を自分の行いで作るしかない。
その夜、ロマスは法律家へ手紙を送り、事業の縮小を相談した。誰も彼の心を読めない。シオンがどう願おうと、商人は商人として生き残る道を探していた。




