二冊の赤帳
ロマスの帳簿は二冊あった。一冊は港務官へ出す正式な記録。もう一冊は、夜間警護代を集めた私的な帳面だ。書庫の火事の後、会計係が退職を申し出て、私帳の存在を打ち明けた。脅されたからではなく、火事で同僚を失いかけたことが怖くなったのだという。
ヨエルは会計係の証言に基づき捜索令状を得た。商会から持ち出された私帳には、七枚花弁の札と同じ印が押されていた。ロマスは印を商標として登録し、夜間警護の名目で費用を徴収していた。帳簿に残る金の一部は、実際の夜警へ渡っていない。
シオンは自分の黒い花が、紙の上で所有されていた事実に驚いた。彼が何年も思い描いた美学は、一枚の申請書で商人の道具になっている。怒りは強かったが、印の盗用自体が主な罪ではないと分かっていた。失われた賃金と、脅された家々の方が重い。
フォルは失った日当の計算を自分でやりたいと申し出た。ネラは算盤を貸し、難しいところだけ教えた。祖母の前で働いた日数を書き込む時、少年の手は震えなかった。シオンは彼の横で数字を読み上げ、自分が立派な悪を名乗るより先に、この一つの名前を消さぬ仕事が残っていると思った。
ロマスは役所へ出頭し、私帳の数字は共同事業の準備金だと説明した。法律家を雇い、売買契約を次々提出する。彼は怯えているようには見えなかった。シオンは期待した顔を見られず、なぜかほっとした。相手が簡単に崩れれば、あの醜悪な手口の底を知ることはできない。
夜、ネラは私帳の写しを整理した。返金先の人数はすぐに数えきれない。シオンは自分の印だけを消してほしいと言いかけ、代わりに被害者の名簿を手伝わせてほしいと頼んだ。彼女は不承不承、数字の確認だけを任せた。




