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悪の美学――染物師の弟子は、最高のヴィランを目指す  作者: 竜太郎


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眠らない裏口

共同倉庫で行方の分からないフォルの名が、北の宿駅で目撃されたという報告が来た。カルナの知り合いの護衛が、少年らしい人物を見たらしい。祖母はすぐ迎えに行こうとしたが、足が悪く長旅には耐えられない。シオンは代わりに調べると申し出た。

その晩、シオンは宿駅へ向かう荷車に乗った。護衛のカルナは同行を断らなかったが、勝手に戦うならその場で置いていくと言った。道中は静かで、谷の見張り火が遠くに見える。シオンは荷台で何度も黒い花の印を取り出し、押す場所を考えた。

宿駅の裏口には若い男が立っていた。顔に傷があり、右の靴の踵が擦り減っている。フォルの祖母から聞いた癖と一致した。シオンは名を呼びかけたが、男は振り向かず、荷を運び続けた。本人かどうか確かめるには、顔を見せてもらうしかない。

フォルの右足には古い火傷の痕があり、祖母は昔から歩く時に片足をわずかに引くと話していた。カルナはその癖を確かめてから手袋を見せた。偽者を見つけて追い立てれば、何も知らない人間に罪を負わせる。シオンは確信する前に名を呼んだ自分の軽率さを悟り、少年へ謝ろうとしたが言葉が出なかった。

カルナは近づき、祖母が預けた手袋を見せた。男の肩がわずかに震えた。フォルだった。彼は戻れないと言った。ロマスの商会から前借りした金を返さねば、ほかの雇い人が代わりに請求されるのだという。

シオンは荷台に腰掛け、フォルの話を聞いた。自分の名を使った男たちは、互いを借金で縛っている。脅す相手が一人では済まない仕組みだ。カルナは少年へ脱退を勧めず、まず借用証を見せるよう言った。夜明けに三人は宿駅の帳場へ向かうことになった。

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