取引を断る理由
ロマスの誘いを断った翌日、シオンの修繕仕事が三件取り消された。いずれも河港の商会からで、理由は別の職人へ依頼することになったという。シオンは注文書を並べ、三社がロマスの仲介先であることを確かめた。直接の脅しはない。取引相手を選ぶ自由を使った報復だった。
下宿の家主オルデは家賃の支払いを心配し始めた。未払いになれば部屋を貸せないと告げる。シオンは笑顔で安心させようとしたが、今月の賠償積立を数えると余裕は少ない。悪名を掲げる者にも、家賃を払う日は平等に来る。
ネラは帳簿を見ると、ロマスとの接触を止めるよう勧めた。「契約を失ってまで何をしたいの」。シオンは答えた。「あの男は他人の恐怖に値札を付ける」。ネラは首を振った。「あなたも人の恐怖を欲しがってる。それを忘れないで」。痛いほど正確な言葉だった。
サナは仕入れ代の支払いを一日だけ延ばしてもらうため、港の紐問屋へ頭を下げた。相手は小さな保証金を求め、ヴェグが自分の道具を担保に差し出した。シオンはその話を聞いて初めて、自分の争いの周囲で他人もリスクを負っていると実感した。四人の名前が並んだ契約書に、黒い花を押す場所はなかった。
シオンは一晩考え、仕事を奪い返す方法を探さなかった。代わりに倉庫から締め出された職人たちへ、共同で修繕の注文を受けないかと話した。賃金は小さく、組織を作るには面倒が多い。集まったのは四人だけだった。
彼は黒い花の札を掲げなかった。協力を求める場で恐怖を売れば、ロマスの商会と同じになる。四人は翌朝から帆布の修理を始め、昼の鐘が鳴る頃には最初の注文を終えた。シオンが悪へ進もうとする足元で、生活は細い糸のように続いていた。




