給仕の選択
酒場の給仕エダは翌朝も仕事へ出た。踵の小さな傷には布が巻かれ、床の掃除をするたびに痛んだ。シオンが詫びに来ると、彼女は金を受け取りながら言った。「あんたが助けたことにはならないよ」。彼は唇を閉じた。反論すれば、自分が欲しいのは礼だと認めることになる。
エダは店主の娘ではなく、海沿いの村から働きに出てきた。仕送りを止めれば妹たちが困る。『夜の王』を名乗る男に絡まれても、仕事を辞める選択肢はない。衛兵へ訴えるなら客の証言が要るが、酒場にいた男たちは皆、目を逸らしている。
シオンはもう一度男を殴りに行こうとした。エダはその考えを見抜き、戸口に立った。「誰かが暴れるたびに、片付けるのは私だよ」。彼は初めて、憎んでいる粗末な悪と自分の衝動の距離を測った。遠いと思っていたが、実際はすぐ隣にある。
代わりにシオンは酒場の出入り口に立ち、男の仲間が来るたび、店主へ名前を知らせる役を引き受けた。仕事の妨げにならないよう、昼は仕立てをして夜だけ顔を出した。男たちは別の店へ移り、エダは息をつけるようになった。
エダは自分で、酔客への給仕順を変えた。大勢で騒ぐ席には店主と二人で近づき、一人の客には長居させない。小さな工夫で収まる争いもあった。シオンがいなくても彼女は暮らしを立て直そうとしている。そのことは彼の自尊心を少し傷つけ、同時に妙な安堵ももたらした。
それでも彼女はシオンに笑いかけなかった。町にとっては大きな出来事ではない。だがシオンは、相手に認められなくても結果を引き受けるという、見栄とは違う重さを持ち帰った。




