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3話 救世主…?

「何してんだ」




 二人して戸惑っていると、後ろから声をかけられた。


 まったく、誰だよこんな時に話しかけてきて、よけいに混乱するだろ……って、もしかして。




「秀、か?」




 俺やレンと比べてもはるかに低く、その上で威圧感もあるようなその声には、聞き覚えがあった。おそるおそる名前を呼びながら振り返ると、秀は正解だ、と言いコクっと軽く頷いた。




「え、しゅ、秀の方こそなんでここにいるんだよ? 部活中じゃないのか?」


「今さっき3on3の練習が終わって休憩してるところだ。それで水を汲みに来たらお前らが見えたから話しかけた」




 秀は端的に話した。なるほど、ユニフォームしか着ていない理由も、でっかい水筒を持っている理由も説明がつく。




 あ、まだ説明してなかったな。こいつ、藤牧秀(ふじまきしゅう)は二年にしてバスケ部の副部長を務めている超絶スポーツマンだ。


 中学の時からその体格と並外れた実力は有名で、同じ学校じゃないにもかかわらず俺の耳にまで入ってきていた。未来を約束された超絶エリート、加えて成績優秀、容姿端麗。非の打ち所がないこいつには、おこがましくはあるが勝手にジェラシーを抱いていた。


 去年の春、入学式で同じ高校だってことを知ったけど、特に何の感情も抱かなかった。俺は先天性の才能は何一つ持っていないし、スポーツなんて尚更だ。いつも体力テストでは学年平均の少し上をいく程度で、運動部に所属したことすらない。


 どうせああいうエリートはクラスの一軍どもとつるんで、毎日のように女子に告白されてハーレムを築いて、きゃっきゃうははと青春を謳歌するんだろう。そうやって卑屈に(かま)えていた俺に、思わぬ奇跡が起きた。俺たちは隣の席になったのだ。




 聞けば、俺たちのクラスは極端にな行が少なかったらしい。曽野の後にはすぐに野田やら林やらが続いて、藤牧が出た。だから偶然にも俺たちは隣になってしまったのだ。


 最初こそ、アンタとは絶対に仲良くなってやらないんだからね!? とツンデレヒロインのように構えて始まったものの、オリエンテーションや授業で同じ班になる割合は高く、気づけば仲良くなっていた。


 でもそれは、俺が秀の魅力に()きつけられて〜〜みたいな理由ではない。むしろその逆だ、秀は想像していた人間とはまったく違った。




 まず、秀はそこまで明るくない。話せない訳ではないのだが、いかんせん無表情で感情が読み取りづらい。「大丈夫だ」と言われてもそれが賛成なのか反対なのかわからない、なんてのは日常茶飯事だ。


 次に、秀は驚くほど女子に興味がない。


 俺の卑屈な想像は当たってはいて、毎日のように中庭に呼び出されるわ机に手紙は入っているわで大人気だった。しかし秀はそれを断るどころか、そもそも呼ばれても行かない、「お前には興味ない」などの発言、手紙に至っては読まずに捨てるなど、おいおいクールでは済まされないぜ? というほどの残虐さを見せていた。


 学年一の美女と言われるような子にも同じ対応で、ルックスで判断してる訳じゃないんだなと思うと同時に、だとしても冷たすぎて彼女たちが可哀想でもあった。いくらなんでも残忍(ざんにん)すぎないか? と友達ならではのだる(がら)みに便乗(びんじょう)して聞いてみたら、どうやら秀は自分に好意のある異性が苦手なんだそう。それには過去のある出来事が原因だと言っていたが、そこを踏み込む勇気は俺にはなくて、へーそうなんだイケメンなのに勿体(もったい)ないな、で済ませてしまった。俺のヘタレ。




 とまあ、このように意外性で(あふ)れていた本当の秀を知った上でまだお前モテるから嫌い! となるほど俺も子どもではなく、そこからはふつうに仲良くさせてもらっている。学年が上がりクラスは離れたが今も仲良くしていて、都合さえ合えば市の体育館に試合を観に行ったりするような関係性だ。




「あ〜バスケ君だ!」


「なんだその呼び方」


「え〜バスケ君はバスケ君じゃ〜ん」




 俺が長いこと秀について思い出している間に、いつの間にかレンは秀に話しかけ、二人で会話をしていた。


 いや、あれは会話と言っていいのか悩むところではあるが……。なんでも自分の好きなように突っ走ってしまうレンを、秀が押さえ込んでいる。奔放な犬と飼い主にしか見えない。


 ……そう、俺と秀が仲が良いということは、レンと秀も顔見知りだということだ。今のように軽く会話をするぐらいなら、何度か見かけてきた。友達とまではいかないと思うが、普通に話せるというだけでも、きっと相性は悪くないのだろう。




「お前、まだ俺の名前覚えてないのか」


「シューくんでしょ、拓ちゅんから聞いてるし〜。そっちこそ、もしかして俺の名前知らないんじゃないのお〜?」


「永乃レンだろ。同級生の名前ぐらい把握してる」


「え〜何それ一丁前にカッコつけて〜! ちょっとお、聞いた拓ちゅん!?」


「拓斗は関係ねえだろ。てかさっきから何なんだ、その変なあだ名は」


「変じゃないです〜! 拓ちゅん本人からOKもらってるんで公認のあだ名です〜!」


「は……拓斗、なんで認めたんだ? てか前から思ってたがなんでこんなやつとつるんでんだ?」


「……許可なんてしてねえよ。こいつが勝手に言ってるだけだ。なんでつるんでるかって……そりゃあ……」




 あれ、おかしいぞ。言葉が出てこない。幼馴染だからって、たったその一言で済ませられるのに。




 ……でも、いくら幼馴染だとしても、俺らはおかしいのかもしれない。同い年なのは偶然だけど、ふつう高校まで同じってありえるか? 小学校や中学校と違って受験して入った訳だし、近くに別の学校もある訳だし……。


 それに、レンはたしか、直前で志望校をここに変えてたんだよな。やっぱ俺の成績じゃ無理だったよ〜って笑い飛ばしてたけど、もしかしてそれも……。




「ウチも気になるわそれ」




 だんだんと嫌な想像が頭を埋めつくし、危うく負のスパイラルが起きそうになっていた矢先、後ろから救世主のように共感の声が聞こえた。だ、誰だ。




「……!? 四ノ宮(しのみや)!?」




 声の主に感謝しつつ後ろを振り向くと、信じられないぐらい短いスカートを履きこなし、ぬいぐるみをたくさんつけたいかにも重たそうな鞄を肩にかける女子、四ノ宮の姿があった。そうだ、この外見でわかったと思うが、四ノ宮はギャルだ。それもかなりの。




「そでーす。せーかい。よく覚えてたねウチのこと」


「いやいや、忘れる訳ないから……」




 無表情のまま片手でピースを作る四ノ宮。その手には長いネイルチップが貼られていて、ピンクのヒョウ柄やキラキラとしたパーツが施されている。


 最初に会った時よりどんどん派手になっている気がして、俺はもはや恐怖を感じた。ブリーチしました! と言わんばかりの明るい髪も、細い眉もつけまつげも、とても似合ってはいるが、おにも親しみやすいとは言えない。




「? だれ?」




 四ノ宮のことはよく知っているはずなのに、万年陰キャにはやはり刺激が強いのか、タジタジとなってしまう俺。その隙を見計らってか、レンが四ノ宮について聞いてきた。




「四ノ宮ゆり、去年クラスメイトだった子だよ。見た目は派手だけど、すごい優しくて面白いんだ」




 俺は簡単に説明した。レンが人を怖がるなんて考えられないが、一応のために補足もして。




 四ノ宮も秀と同じく、去年のクラスメイトだ。名字の時点でお察しの通り、俺たちは前後の席だった。秀と違って授業外での関わりはあまり無かったけど、それでも、四ノ宮という人間を知るには十分だった。


 彼女はとてもサバサバとしているし、おまけにすごく正直だ。良くも悪くも言葉を選ばない彼女の言動が刺さる時もあるけど、いやむしろそっちの方が多いけど。でもそれは逆を言えば、人を見た目や性格で判断せず、真摯(しんし)に向き合ってるってことでもある。だからこそ四ノ宮は男女問わず人気があるし、派手な格好もむしろ彼女らしいと好感を寄せられていた。




「へ〜。全然知らなかったや君のこと!」




 俺の紹介を聞いてなお、レンは興味なさそうにキッパリと言い切る。


 お、おいちょっと、いくらなんでも失礼だろ。


 そう慌てる俺はお構いなしに、四ノ宮はかすかに微笑んでレンに言い返した。

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