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2話 レン拓? なんだそれ?

「そうだよ」




 わざわざ嘘を言う必要もないなと思って、俺は率直に肯定する。ここで嘘をついたところで意味がない。レンにはもうすべてがバレているのだから。




「ふーん……」




 するとレンは俺のスマホをじっと見つめた。こんなトーク履歴、見たところでたいして面白くもないだろうに、レンはずっと見つめている。なんだ、まさかまた新たな情報を得ようとしているのか?




「……うん! スタンプ可愛いからOK!」


「は?」




 しばらく見続けてふと顔を上げたかと思えば、にぱっとした笑顔でそんなことをほざいた。




「OKって何がだよ?」




 俺は眉をひそめながら、真正面からレンに聞く。こうでもしないとこいつは答えてくれない。




「OKって、まさか勝手に審査でもしてたんじゃないだろうな」


「だって幼馴染だもん! これぐらいさせてよね〜」




 (いぶか)しげに聞くと、レンは隠す素振りもなくあっけらかんと答えた。やっぱり審査してたみたいだ。こういう時だけ幼馴染の立場を使うのって卑怯じゃないか?




「そんなことより聞いてよ拓ちゅん〜今日の二限の体育まーじしんどすぎてガン萎えだったんだけど〜」




 そうこうしているうちにレンは勝手に話をすり替え、今日の辛かった授業ランキングベスト3を発表している。だがそんなのにまるで興味はないし、何より悪気はなくとも夏月姫を”そんなこと”呼ばわりしたことに腹が立って仕方がない。


 それに、さっきからレンは俺の首やら腰やらに腕を回してベタベタとひっついてくる。これもレンの昔からの癖だ、とてつもなく嫌だが我慢するしかない。




「ちょっと拓ちゅん聞いてる〜? 一位体育かと思えば実は違いましたー! 山センの古典の授業でしたー! って話してたんだけどお!」




 ……だからくっそどうでもいい。何位が何の授業だろうが知ったこっちゃないし、山センこと山崎の授業がつまらないのはいつものことだ。




「おいレン、いい加減にしろよーー」




 キレ散らかすほど(しゃく)(さわ)った訳ではないが、とりあえずこのグダグダとした空気をなんとかしたくて、ちょっと厳しめにレンに言ってみよう、と思い立った。そう、思い立ったが吉日(きちじつ)だ、すぐに実行しようとレンに顔を近づけると。




「きゃあああ!?」




 突如叫び声が聞こえた。この絶妙な高さとトーン。


 間違いない、夏月姫の声だ。




「夏月姫!? どこにいるんだ!?」


「うわびっくりした、」




 俺はすぐさまレンから顔を逸らした。レンの低い地声が聞こえても構わずに、首をぐるんぐるんと回して周囲を見渡す。




 声で夏月姫だとわかったけど、あんな叫びを聞いたのは初めてだ。


 ……ま、まさか、あまりの可愛さに他の生徒に手を出されているんじゃなかろうか。もしくは、校内に不審者が出たとか。


 放課後の送り迎えだけじゃ足りないのかもしれない、もっと俺が徹底的に守らなくちゃいけない、なんてさらに過保護な心が促進していく。




「……! 夏月姫だ!」




 無言で辺りをしばらく見渡していると、向こうの校舎からこちらに走ってくる人影が見えた。その髪型と走り方で夏月姫だと確信し、思わず大声を出してしまう。




 そうか、夏月姫は美化委員会に所属している。たしか美化委員会は、毎週水曜日の放課後に会議があると委員募集のチラシに書いてあった。会議室は俺たちの後ろにある第一校舎の向かいにある第二校舎、つまり夏月姫が出てきた校舎の二階に入っている。




「それでかー……」




 いつの間にか消えていたスマホの画面を触ると、大きな”水曜日”という文字が目に入ってくる。くそ、そういうことか、だから夏月姫はちょっと遅れそうという表現をしたのか……




「……よくわかんないけど、一件落着ってことでいいのかにゃ?」




 ほっと胸を撫で下ろしていると後ろから邪魔者が話しかけてきた。


 夏月姫のことばかり考えてすっかり存在を忘れていた。まだいたのかよ、かなり最初の方で飽きてたからとっくに帰ったのかと思ってた。




「まだしてねえよ。夏月姫が叫んでた理由がまだわかってない」




 姿は目で捉えることができたが、肝心な叫びの真相を聞けていない。それが解決しない限りには夏月姫が本当に安全かわからないから、本人の口から聞かないと意味がない。




 だからこうして夏月姫を待っているのだが……実のところ、夏月姫はとんでもなく足が遅い。とんでもなくだ、ほんとにとんでもなく。今だって、第二校舎からここまでのせいぜい七、八十メートルの距離を来るのに、かれこれ三十秒は経過している。




「遅いね。拓斗の猫ちゃん」


「気色悪い言い方すんなよ」




 だが時間なんて、こいつの戯言にツッコんでいれば一瞬で過ぎ去る。……あ、今の言い方はちょっとかっこいいな。よし、こうやって待っていれば夏月姫が来るのも時間の問題だ……うん?


 あ、あれ、もしかして、いやもしかしなくても、俺たちが近づけば良かったんじゃないか?


 そう気づいた時にはもう遅く、汗をかき顔をほてらせた夏月姫が目の前にいた。




「……夏月姫」




 会えて嬉しいはずなのに、なんだか気まずい。直前で失態に気づいてしまったせいで、俺は今見事に”彼女を走らせた駄目な彼氏”になってしまっている。そんな状態で何を話しかければいいのかなんて、皆目見当(かいもくけんとう)がつかない。




(なんて言うのが正解なんだろうか)




 待ってたよ? いや、遠回しに遅いって言ってるみたいでダメだ。却下。


 会えて嬉しい? これもイマイチだ、毎日のように会ってるのに不自然すぎる。却下。


 たくさん走らせちゃってごめんね? こんなの最悪だ、じゃあお前が来いよって話だし。却下。




 やばい、難しすぎる。何を言っても心の中の論破王が問いかけてくる。夏月姫はそんなこと言わないってのはわかってるけど、にしても難しい。




 ……って、何してんだ俺! 目の前の夏月姫に向き合うことが最優先事項なのに、なに想像上の夏月姫と喋ろうとしてる。


 まずは大丈夫なのか聞く。次にさっきの叫び声の理由を聞く。この順番で聞くのが最適だろう。よし。




「夏月姫、だいじょ」「あの!」




 覚悟を決めて夏月姫に話しかけると、すぐさま当の本人に遮られた。




 あ、あの? どうしたんだろう、いつもは「ねえねえ」って親しみやすい話し方で接してくれるのに。




 こんな変になってるってことは……やっぱり、どこか怪我をしたんだ、だから脳も混乱しちゃってるんだ。こういう時は俺が冷静にならなくちゃ。よし、今度こそ優しく話しかけるぞ。




「大丈夫だよなつk「お二人は、結婚何年目ですか!?」


「は?」




 あ、よくない。彼女に向けるような顔と声をしていなかった。急いで直さないと…………は? け、結婚? 誰が? 俺とレンが?




「……は?」




 あ、レンも俺とおんなじ声を出した。おい、それが女の子に向ける顔なのかよ、とかなんとか怒りたいとこだけど、あいにく今はそんな余裕はない。


 聞き間違いじゃなければ、夏月姫は今結婚という言葉を使った。それも、俺たちがすでにしているような言い方で。




「……ケッコンシテナイヨ?」




 口をぱくぱくしている俺の代わりに、レンがカタコトで否定する。


 そ、そうだぞ、俺たちは結婚なんてしていない。そもそも、年齢的にも性別的にも、しようと思ってもできないだろ……あ、いや、断じてしたい訳ではないがな!?!?




 と、とにかく! 俺たちは結婚してないしする予定もないし今の日本では認められてさえない。普通の幼馴染だ。夏月姫は俺より断然頭がいいからこんなのすぐわかるはずなのに、一体どうしたんだ……




 さっきよりさらに心配になり夏月姫を見ると、明らかに普通ではないオーラを(まと)い、ぷるぷると細かく震えていた。


 ……怖い。さっきから夏月姫が、別の人間になったみたいで怖い。


 そうやって俺がビクビクしていると、あろうことか夏月姫は嵐のような勢いで話してきた。




「いや、してますよね!? さっきのくっつき加減といい、今のしどろもどろに否定する感じといい、もうデキてるんですよね! いやあ〜、実はずっと応援してたんですよ! チャラ男ってどうしても受にされがちなのがほんっと許せなくて! でもこのレン拓は幼馴染って関係性もあるし、何より嫌がりつつ内心は喜んでる拓斗くんがもう〜萌え一直線なんですよ、わかります!? レンくんがチャらくなったのも、も! し! か! し! て! 拓斗くんが理由なんじゃないですか!? 過去に何かあったとしか思えんそのムーブも拓斗くんの前だから許されるんですよね! はあ〜お見それしました、やっぱり幼馴染しか勝たん!」


「……………………わ、わ、ワッツハプン?」




 すげえ、あんだけ英語が苦手な俺から自然と英語が出た。ということは今のは……そうだな、日本語じゃないな。




「……え……何、あれ」




 俺に続いて口を開いたレンは、俺と同じように口をあんぐりと開けていた。唯一の長所と言ってもいい端正な顔が台無しだ。


 夏月姫はというと、地面に四つん這いになった状態で、はあはあと荒く呼吸をしている。もう、どういうことなんだ、誰か説明してくれ……




「ちょ、ちょっと拓斗、どういうこと? 今何を話してたのあの子は」


「……わからない。俺にも何が何だかさっぱり……」




 キャラが崩れていることにも気づいていないのか、思いっきり素の声で聞いてくるレン。悪い、俺にもわからないんだ、なんせお前と同じく今初めてこの状況に立ち会ったから……

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