4話 萌えにダンクシュート
「そっか、ウチは知ってたよ。ていうかこの状況が面白くてつい話しかけちゃった」
「面白い……?」
思わず四ノ宮の言葉をオウム返ししてしまう。面白いって、俺とレンと秀の三人がってことか?
「だって、バスケ部の爽やかモテ男副主将だろ、チャラいけど優しいでおなじみの典型的クズ男だろ。そんな奴らに囲まれてる曽野かわいそ〜おもしろ〜って思って」
……相変わらず口悪いなあ。それに言ってることもよくわかんなかったし。
要するに、秀とレンが魅力的な男なのにも関わらず、それに挟まれてる俺が特に魅力なしだから哀れでおもしろーいってことか? うん、そういうことだろうなきっと。
「はにゃ? 俺ってクズなの?」
「あ? どっからどう見てもそうだろうが」
あちゃー……。四ノ宮が来てくれたことでやっとレンと秀の嫌な空気が無くなったと思ったのに、今度は四ノ宮とレンが言い争っちゃってるや。四ノ宮は喧嘩売られたら徹底的に買う派の人間だし、レンは無意識に相手の地雷踏み抜くタイプだからなあ……相性は最悪。あー、早く終わってほしいです。
「見つけましたよ四ノ宮さん」
あと何分かかるかなあなんてハラハラしながら考えていると、これまた突然誰かの声がした。しかも今回は後ろからじゃなく、真正面から。
「スカートの丈が基準の範囲を大幅に超えています。今すぐ直しなさい」
「うげ……お椿じゃん」
「その呼び方はやめなさい」
四ノ宮はお椿、と呼ばれた子を見ると同時に顔をしかめた。
なんだ、この人は誰で、二人はどういう関係なんだ?
「なあレン、あの人は誰なんだ?」
何も知らないけど、お椿という呼ばれ方が嫌いであることだけはわかった。四ノ宮は反論しながらも渋々スカートを直している。言い争いが止まっている間に、こっそりレンに近づき小さい声でそっと尋ねると。
「え、拓ちゅん知らないの?」
レンはばかでかい声で、信じられなーいといった様子で話してきた。ばかやろう、声が大きいんだって。
「西野椿、通称お椿。厳しすぎる風紀委員だって有名な人だよ。この学校に通ってたら誰しも恐れる存在だから拓ちゅんも知ってると思ってたのに、チョー意外」
「そこ、聞こえていますよ」
レンが話し終わった途端に、西野さんはぎゅいんと顔を俺たちの方向に向けてきた。うお怖、今眼鏡がキランッて光ったぞ。
でもそっか、風紀委員か……。たしかに納得はできる。
四角い眼鏡は分厚いからか彼女の目は見えないし、前髪は眉毛をぴったり隠している。きれいにまとめられたポニーテールからは後れ毛が一本も出ていない。シンプルではあるけど、かなり見た目に気を遣っているんだろうなとわかる。
「え〜なんなの〜? ちょっと喋ってただけだし〜」
「その変な呼び方をやめなさいと言っているんです。許可した覚えはありません」
「相変わらず頭が硬いねえ。そういうのは認める認めないの問題じゃないんだよ」
「だとしたらそっちの方が問題でしょう。あだ名が原因で登校が難しくなった事例があるのですよ」
「あんたはそんな豆腐メンタルじゃないだろうが」
な、なんか、口論が激化してません……? 西野さんって、意外と言い返すタイプなんだ、な、知らなかった。
「……カオスだな」
ぼそっと呟いた秀の言葉に激しく同意する。カオスだし、怖いし、他の生徒がこの状況を全く気にしていないのが何より怖い。
(もういい……誰でもいいから、この状況をピタリと止められる人がほしい……!)
そう祈るしかなかった。そう祈るのに夢中で、夏月姫が起きあがっていたことに、気づかなかった。
「…………最っっっ高です!!!!!」
夏月姫は立ち上がったと同時に、口論中の彼らがいつの間にか作っていた円の中に入り込み、ぐるぐると回りながらひたすら「ありがとうございます!!」と叫んでいる。
あまりの変人ぶりに会話はぱたりと止んで、四ノ宮や西野さんは夏月姫を不審者を見るような目で見ている。なのに夏月姫はその勢いを止めずに、なんと先ほどの語りをもう一度し始めた。それも、三人分。
「まずは第一ラウンド、藤牧選手! 硬派×純朴も、もっちろん守備範囲です! 普段は無口で人を寄せつけない孤高の存在なのに、拓斗くんの前ではきっと大型犬のごとく甘えてるんだよね〜はい萌え! 萌えにダンクシュート! 女子が苦手なのもほ・ん・と・は! 拓斗、お前にしか興味ねえんだよっていう意思表示なんだよ〜! それに気づきそうにない拓斗くんにガッカリしながらも部活で鍛えた負けず嫌いパワーでさらに燃える姿、天晴れ! 幼馴染という越えられない壁を前にして竦むのか、否! それを乗り越えてこそ真のBLだ! 私は全力で応援します!」
「……は?」
「続いて第二ラウンド、四ノ宮選手! いやあ〜好きですよ! 腐女子はBLしか好きじゃないって思われがちだけどどっこい! NLだっていけますからね!? 最近流行ってるギャル×押しの弱い男子ってやっぱいいんだよな〜! 最初はギャルからのえっちなお誘いで始まったものの、関わってみると意外にもウブなことが判明したり!? 実は料理上手だったり子ども好きだったり!? そういう意外な一面を知ってどんどん印象が変わっていくんだよな〜! 二人のこれからに乞うご期待!」
「え?」
「最後に有終の美を飾るのは西野選手! ふっふっふ……私は知ってますよ? 西野さんが眼鏡を外したら絶世の美女だってことをね! これも王道展開だけどやっぱりマニアックなやつより王道の方が断っ然! 萌えるんですよね〜! こういう時って永乃選手みたいなチャラ男が相手の時が多いけど、もちろん私は拓斗くんを推しますよ! 通常はお淑やかでピュアな受側に回りがちなところを! 拓斗くんのような男子を相手にさせることによって一気に攻に変貌! たどたどしい手つきでシャツのボタンを外してきたらもう〜あとはおわかりですよね!? こっから先は野暮なのでここまで!」
「は……はい?」
はあ……はあ……と先ほどのように息を切らして、夏月姫はまたしても地面に四つん這いになった。
「……あれが、最近できたっていう彼女か」
「……うん」
秀が呆然とした声でぼそっと口にする。いや、秀だけじゃない。四ノ宮も、西野さんも、おまけにレンも、まるであれだ、宇宙猫状態になっている。そうやって言っている俺も、きっと同じようになっているのだろう。
「ちょ、ちょっと拓ちゅん〜なんであんな変な子と付き合ってんのさ!」
レンは心なしか動揺した様子で、またもや肩に体重を乗せてきながら聞いてきた。うお、だから重いんだって、この体だけ健康優良児が。
「不服だが、これに限っては俺も同感だ。拓斗にはもっと素朴な子が似合うと思う」
いつものレンのふざけかとスルーしていたら、なんと秀からも同じ意見が出てきた。秀が冗談を言った試しはないから、おそらく本気で言っているのだと思う。
「ウチも、こういうのに首突っ込むのって野暮だけど曽野のために言っとく。見合ってないよ、お前とこの子」
「……私はノーコメントで」
な……なるほど。整理すると、夏月姫との交際に反対派が三人、沈黙が一人ってことか……。
いや、だからといって「はい別れます」とはならないけど、こうもズタボロに言われてしまうと、さすがにメンタルがやられる。あと夏月姫のメンタルも心配だ。きっと聞こえてないだろうけど。
「いや、全然変な子ではないんだ」
「え〜変じゃん!」
咄嗟に出した夏月姫へのフォローも、レンによってすぐさま取り消される。
「いや、なんというか……きっとこれは、俺のせいでもあって……」
「拓斗のせい?」
言い逃れできない状況になって、俺はしどろもどろになりながら理由を説明しようとした。
実は、夏月姫がああなったきっかけに心当たりがあるんだ。俺の記憶が間違ってなければ、きっとあの時に……。




