そうだ、財団を設立しよう
某月某日。風が少し強い。
新入生交流会に向けて、演目決めを行う。
学年の垣根を越えて、アンサンブルを組むらしい。
と、聞いていたのだが。
なぜか私は黒髪の青年と組むことになった。
学年の垣根を越える件はどうなったのか。何か闇の力が働いている気がしてならない。
と、当日はどんな体調不良を起こそうか考えていたのだが、急遽マデリン様も合流すると聞き、万全にコンディションを整えることに決めた。
闇の力バンザイ。
彼女を輝かせるためなら、這ってでも来なければならない。
絶対にだ。
そうして私は物陰に隠れられるという利点から、ピアノを担当することになった。
マデリン様は声楽。素晴らしい。できることなら私も観客席から浴びたいところだが、特等席から近距離で見られるという視点で前向きに捉えたい。
ちなみに黒髪の青年はヴァイオリンとのこと。
ハイスペックな二人に見劣りしないよう、努力したい。
前向きな日記はここまでにして。
さて。おかしい。妙だ。
いったいどこにルート分岐があったのだろうか。
「ナタリアはピアノも上手だね。小さな手がちょこまか動いて可愛い」
立派な体躯をちんまりと折りたたみ、こちらを上目遣いで見上げるワンコ系黒髪青年。
だが、その実態は我が国の第二王子アルフレッド・ドラグナール殿下である。ひぇえ。
ヴァイオリンの練習を始めるのかと思いきや、ずっと私の足下にいるではないか。ひぇえ。
「れ、練習・・・・・・シナイト、アノ」
「あぁ、この曲は子どもの頃にやったし・・・・・・今更、ね」
へへっと照れたお顔は愛らしさマラソンぶっちぎりの一位だが、発言が高みのソレである。さすがロイヤル。
先日まで国外にいた私も、生国の事情については予習済みなので把握している。
まずマデリン様のご婚約者であられる、エドワード殿下は現王妃様の第一子。アルフレッド様の“弟”である。
複雑~~~!
なぜ兄である、アルフレッド殿下が第二王子となっているのか。
それには可哀想な背景がある。
アルフレッド殿下の実母である妃殿下は、現国王の最初の王妃であった。
だが、彼が十歳の頃に先代王妃様は亡くなり、現在のエドワード殿下の母君が王妃となったわけだ。
母親という後ろ盾を失ったアルフレッド殿下は第二王子となり、エドワード殿下の補佐という立ち位置となった。
そう。
つまり、アルフレッド殿下は、メインストーリーのほうで尺を使って差し支えない過去を背負った方なのである。
なんですかモブ仲間って。解散解散!
ヒロインと関わって過去のトラウマとか悩みとか晴らしてもらって、愛を育むといいですよ。
こんなところでモブと隠れている場合ではありません。
・・・・・・と、言えたらよいのだけれど。
ふい、と右に顔を背けても。
ぐるりん、と左に身体ごと回っても。
わふわふと笑顔でついてくるアルフレッド殿下は、うちのワンコと同じぐらいの愛らしさを見せつけてくる。
「・・・・・・も、申し訳ございません。アルフレッド殿下」
「そんな他人行儀な。いっそ、私のことは”アル”と呼んでくれて構わない。仲間でしょう?」
さぁ、今すぐ、即時に呼べ! と言わんばかりの期待の籠もった目が怖い。圧力すごい。浸透圧でふっくら中まで味が染みそう。
「──マデリン、こんなところで逢い引きか?」
「──あら。エドワード殿下。それに皆様も、なぜこちらに」
と、私が圧に耐えている時間に、マデリン様の元へ来訪者があった。
「ナタリア、はやく呼んで」
「シッ! 今はだめです」
「ちょっとナタリア? よそ見しないで?」
アルフレッド殿下につんつん頬をつつかれているような気もするが、今はそれどころではない。
私の視線の先では、音楽室の端でハミングをしながら練習に勤しんでいたマデリン様の元へ、エドワード殿下や側近候補の方々がやってきた。
しかも、不穏な空気をまとって。




