アルフレッドの場合
良い夢を見た。
何年も何年も探し続けた少女が成長して、俺の元に帰ってくる夢だ。
警戒を隠そうともしない子リスのような彼女が、ほにゃりと柔らかく笑いかける夢。
絡まない視線が、俺をしっかりと正面から見つめ返してくる夢。
かわいい唇が、俺のために動く夢。
徐々に浮上してくる感覚が、それは夢だと痛いほど知らせてくる。
まぶたを通して入る光りを遮ってみたが、もうナタリアは現れない。
「落ち着かれましたか。アルフレッド殿下」
「・・・・・・ナタリアは?」
「もう帰られましたよ。当たり前じゃないですか」
「え? 結婚するのだからもう一緒に住めば良いじゃないか」
「ついに妄想と現実の区別がつきませんか」
お労しい、そう棒読みで話を流そうとする従僕を尻目に、もう一度夢の続きが見られないかと目を閉じてみる。
──ナタリア・ヒューズが帰国した。
その情報を掴んだのは、学園で行われる入学式典の前日だった。
何年も何年も探したのに、髪の一筋の足取りもつかめなかった日々は、あっさりと終わった。
見事にヒューズ公爵に隠されたというわけだ。
もしかしたら、陛下も協力していたのかもしれない。
ナタリアを隠された日から、俺は絶望の中にいた。
その絶望は深く、深く、光の届かない闇だった。
だが、その闇に浸かったまま自分を慰めている時間は無駄だ。
そんな時間があるのなら、もがいてナタリアを探すことこそが俺の救いになった。
大切な人を隠された絶望は、俺の願望も、執着も、野心も色濃くした。
あれだけ会いたかったナタリアに再会するのは、少し緊張した。
思い出の中のナタリアはまだほんの少女のまま、成長を止めていたから。
どんな女性に成長したのだろうと、ほんの少しだけ不安を抱えた入学式典当日。
講堂を見渡せば、先を歩く銀髪の女性がいた。
さらさらと華奢な背を流れる銀の髪が、誘うように揺れていた。
思い出の中の少女も、同じリズムで歩いていた。
──あぁ、そこにいる。
苦しいほど胸が締め付けられた。どくどくと脈動する音が頭の奥をかき乱す。嬉しいのに涙がこぼれ落ちそうになるのはなぜだろう。だが、それはナタリアのように澄んだ涙に違いない。
そして、この胸に広がる正の感情の強さと同じぐらい、邪魔なもの全てに同じ苦しみを味合わせてやりたい負の感情がうねる。そんな二種類の感情が混ざり、今回は若干“正”の方が勝った。
そんなことに時間を割くよりも、今はナタリアとの距離を縮める方が先だ。
幼なじみのマデリンにも言われたが、ナタリアがいなかったら俺は国を滅ぼしていたかもしれない。全国民、ナタリアに感謝した方がいい。
女子生徒は上位貴族の席まで歩みを止めない。
振り向いてくれないだろうかと期待して、追いかけそうになる。
その彼女に話しかけようとしたやつがいたが、目が合うと下がっていった。
俺より先に会話をするのは許せなかった。
彼女は少しだけふらふらと可愛らしい頭を揺らしたが、すとんと席に座った。
その様子をぼうと見ていたら、横をマデリンたちが通過した。邪魔だ。見えない。
俺がナタリアを探し続けていることを、嫌というほど、骨身に染みて理解しているマデリンも、彼女の存在に気付いた。ひどく驚いた顔で話しかけようとしていたが、エドワードの機転で事なきを得た。
使えない同い年の“弟”だが、褒めてやろう。
だが、待望の再会は思うように始まることはなかった。
想像以上に美しく、可憐に、そして無感情な人形のように成長したナタリア。
彼女ととにかく視線が合わないのだ。
かわいいかわいいナタリアは、
俺のことを忘れてしまったのだろうか────
あろうことか、彼女はマデリンばかりを見つめていた。
マデリンを餌にして接触を試みたが、感触はよくない。
それでもゆっくりゆっくり時間をかけて接触回数を重ね、慣れてもらうことに成功した。
冷たい目が期待に代わり、強張った頬は雪解けのように柔らかく変わった。
そして、やっと。やっと仲間という称号もえることができた。
次は恋人だ。
「いくつか段階が飛んでますよ」
「盗み聞きか?」
「口に出てましたよ」
心底気色悪いと思っているという顔を隠すそぶりのない従僕は、珍しく腕を組んでこめかみを揉んだ。
これは従僕である彼の、言いにくいことを忠言する時の仕草だ。
面倒だが言うしかないとでも思っているのだろう。
「殿下、改めての確認ですが・・・・・・」
「わかっているさ。ヒューズ公爵との約束は違わない」
約束を違えば、ナタリアを手に入れることができなくなるのだから。
今度はヒューズ公爵も陛下にも、後れをとることはしない。
むしろ使ってやればいいのだ。
使えるものは全て使おう。権力でも、マデリンでも。なんでも。
「だから口から出てますって」
「聞くな。耳を閉じろ」
「そんな横暴な」




