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【連載版】脇役令嬢日記~私のことよりメインストーリーを進めてください!~  作者: コーヒー牛乳


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二人っきりになっちゃったね

  ヨロヨロとすっかり弱々しい背中になってしまったキンヴァリー様と、熟練兵のようなオリビア様の背中を見送った。


 友人とのカフェが、いつもの隠密行動になってしまった。

 ジトッと隣のアルフレッド殿下を見るが、ポッと照れたような顔をされた。

 なぜ頬を染める。こちらは睨んでいるんだぞ。


 それにしても、キンヴァリー様は大丈夫だろうか。

 あのロイヤル問題児集団が現れるまでは元気だったのに。


「二人っきりになっちゃったね」


 ロイヤル問題児その2が何やら期待の籠もった目でこちらを見た。

 なに偶然二人になったような空気を出しているのだろうか。あなたが二人を帰したんでしょうが。


 せっかくの友人たちと過ごす休日だったというのに。

 腹が立ったので、パフェを追加注文しておいた。アルフレッド殿下にケーキを食べられてしまったので。

 

『──その話に、根拠はあるのか?』


 緩んだ空気に、エドワード殿下の硬い声がよく聞こえた。

 こちらの一騒動は、あちらに通じていないようだ。


『──根拠っていわれてもぉ。お友達たちの間では有名ですよ。宵闇の方とご婚約者様が人目も憚らず……って』


 そうなんですか? と隣のアルフレッド殿下にちらりと視線をやったが、血走った目でこちらを凝視していた。こわい。

 そんなにこのケーキが欲しいんですか……? と、いやいや差し出したが、違うらしい。私が食べるところを見て、しみじみと深く頷いていた。食べづらい。


『──人目を憚らずって……大げさな』

『──えぇ?でもぉ、婚約者がいるのに、こそこそと、頬が触れるほど近づくなんて考えられないと思って……』


 指折り語られる二人の行動は、食堂から始まり学園の廊下や裏庭の東屋、密室での逢瀬。音楽祭では揃いのリボンを持って。音楽祭では同じグループになるように権力を笠に着せやりたい放題。入学からまだ半年も経っていないのに。


 桃色の髪の女子生徒が語るアルフレッド殿下とマデリン様の密会の日々。

 改めて聞くと──あれ……身に覚えがありすぎて冷や汗が止まらないな。


 その目撃情報、二人ではなく三人じゃなかった???


 た、大変だ。

 男爵令嬢が上げた、マデリン様とアルフレッド様の怪しい行動には幻の三人目がいる。

 つまり私だ。


 なんてこった。

 私の存在感が薄いばかりに、禁断の密会現場になっている。


 わ、わたしも偶然その場にいたんですよ~と入っていくべきだろうか。

 急に話に割り込んだら無礼討ちされてしまうだろうか。


 ここはやはり本人の口から訂正すれば丸く収まるのでは!?

 あわあわと横にいるアルフレッド殿下の袖をクイクイ引っ張るが、彼は天を仰いでいた。いや、空より自分の現状を見てください。


「──ナタリア」


 袖を引っ張りすぎたのか、手をおさえられてしまった。

 現実逃避をやめ、やっと戻ってきたアルフレッド殿下の表情は真剣そのもの。


 そうだ、少し慌てすぎた。

 アルフレッド殿下とエドワード殿下は兄弟だ。

 盗み聞きしていたことは、なんとか問題にならず、良い感じに、なあなあに済ますことができるだろう。


 期待を込めて、アルフレッド殿下の視線に相対する。

 さあ、隣の席に行ってください!

 異議あり!とここは堂々と乱入するのです!


 袖を握ったままだった私の手を、殿下は優しく服から剥がした。

 そして勢い良く立ち上が……らず。なぜか指を絡ませた。


「……っ、こうしていると、まるでデートみたいだね」

「こんなにも落ち着かないデートは嫌ですよ」


 あなた、今、第一王子の婚約者の浮気相手と、政争の疑いをかけられてますが、疑似デートをしている場合ではないでしょう。


「俺もドキドキしすぎて落ち着かないよ」

「そういう意味じゃ無くて……」

『──おい! 先ほどから、そこに誰かいるのか!』


 隣の席からガタリと椅子が押し退けられる音がした。次の瞬間、観葉植物が押し退けられた。


 私の方に。


 丸い鉢はくるりと回り、私の姿を隠す壁となった。

 私の姿は隠れたが、隔てるものがなくなったアルフレッド殿下だけあぶり出されるカタチになったのだけれど。

 

「なっ、先ほどから騒いでいたのはアルフレッドだったのか。盗み聞きとは趣味が良い」


 アルフレッド殿下もガタリと立ち上がり、こちらに注目している。


「デート中は知らないふりをするのがマナーだろう」

「ハッ、デート! ……一体、誰と会っていた」


 もしかして、マデリンか?

 エドワード殿下の目が鋭くなった。


 あ、どうしよう。で、出て行った方がいいのかしら……!?


 そわそわと木の陰で揺れたのは、アルフレッド殿下にはわかったらしい。

 ふっと小さく微笑んだ彼は、テーブルの下で手を動かした。

 その動きは『そのまま』と伝えている気がするが、これは都合のいい解釈だろうか。


「彼女は恥ずかしがり屋なんだ。そっとしておいてくれ」

「……っ、いや、顔を見せろ!」


 エドワード殿下はキョロキョロと他の席まで覗きに行こうとするそぶりを見せた。

 ひぃ! や、やめてぇ!


「──エドワード。聞こえなかったか?」


 低い、怒気を孕んだ声が落ちた。あの魔王のような声が。

 ひぃ! こっちもやめてぇ!

 ぶるぶるが加速した。


「今、デート中なんだと言っただろう。そうでなくても、俺のことに構うな。アイーダ様が心配するぞ」

「……母上は関係ない」


 ハッと馬鹿にしたように笑った、アルフレッドの表情はものすごく黒い。

 そ、そんな表情もできたのですね……?


「お前の婚約者殿は休日の今日も王宮で講義を受けているんじゃないか? お前たちがここで遊んでいる間、俺も王宮にいた方がよかったか」

「……っ」

「エド、もう行きましょう」


 エドワード殿下の側近たちが、この場をどうにかしようと動き始めた。

 こんな状況でずっとパフェを食べ続けていた女子生徒は、やっと立ち上がった。あ、完食してる。


「君ももう帰りなさい。今日のことは他言無用だ」

「エドワード様っ、アルフレッド様っ。ごめんなさい、わたし、そんなつもりじゃ」


 きゅるんっと音が出そうなほど甘い声で小さく震える桃色の髪の女子生徒は、アルフレッド殿下の名前を呼んだ。というか王族二人の名前を呼んでいる。


 ピリッとした空気を出した側近たちに構わず、桃色の髪の女子生徒はふりふりと特徴的な髪を揺らしていたが、帰る様子はない。


 彼女が必死に話し掛けているアルフレッド殿下だが、彼女に視線をやるどころか完全に無視を決め込んでいる。それに負けじと食らいつく女子生徒。


 つ、強いメンタルだ……!

 だんだん私の方が泣きそうな気分になってきた。


 負けない、くじけない、涙は大盤振る舞いの女子生徒を押し退けるように、エドワード殿下がアルフレッド殿下へ駈け寄った。


「弁明もなしか。聞いていたんだろう!?」

「さあ。聞くに値しない」


 弟には返事をするらしい。

 熱くなっているエドワード殿下とは真逆に、アルフレッド殿下は冷静さを崩さない。


「お前に求められているのは、戯れ言に踊らされることじゃない──集まる情報から何を選択するか、どう使うか。だろう?」


 そう静かに諭す姿は堂々としていた。彼の立場からは何が見えていて、弟の目には何が見えていないのか。現在地をわからされてしまったエドワード殿下は、今までで一番、悔しそうな顔をした。


 そう、悔しかったのだろう。

 だから彼が苦し紛れに、アルフレッド殿下に無理難題をつきつけたのもしょうがない。


「では、今日のデート相手とやらを他校との親善会に連れて来い!」


 問題は私も巻き込まれていること、だ。



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