忘れたことは一度もありません
『そのドレス似合ってないわね』
──マデリン様との出会いは、春の嵐のようだった。
今では道に転がっている小石と同等の無味無臭のモブな私だが、幼い頃は自分こそがこの世界の主人公だと思い込んでいた。
私の世界は、大好きな祖父母や両親と兄たちに囲まれ幸せで構成されていた。
誰かと視線が合えばほほ笑みが待っている。
困っていると誰かが手を差し伸べて。
欲しいものを自覚する前に、目の前に差し出されるような小さく狭い世界の中心にいた。
その日も意気揚々と、お母様の親友が主催するどこかのお茶会に顔を出した。
みんな私の到着を今か今かと待っていた。そう私が顔を出さなければ茶会は始まらない。
お母様と茶会の主催者に挨拶を済ませたとたん、群がる同じ年頃の子どもたち。
いつもは待ってましたとばかりに、あちらこちらに引っ張りだこなのに。
今日はそわそわと他の誰かを待っていた。
私が来たというのに、子どもたちはまだプレゼントを開ける前のようにソワソワとしているのがおもしろくない。
いったい誰のことを待っているのかと不満気に頬を膨らませると、周囲の子どもたちは慌てて詳細を並べ立てる。
自分から話を聞いたくせに、他の子どものことなんて少しも興味がない。待ち人の情報を聞き流していると、ちょうどよくブワリと強い風が私たちを襲う。
重要人物の登場には、天候も味方するものだ。
『──コソコソと、何かしら。聞きたいことがあるなら直接言いなさいな』
凛とした声が、その空間を支配した。
風に押された帽子の影から見えたドレスは私と同じ桃色。
その色を見た瞬間に、私は不愉快な気持ちでいっぱいになった。
『私と同じ色のドレスを着るなんて、失礼な方ね』
桃色はお気に入りの色だったし、私の、私だけの色だと傲慢な勘違いもしていた。
私の色なのに! と、変な独占欲を振りかざし目を吊り上げながら視線を上げていく。
桃色の可愛らしい膝丈のドレスだというのに、その少女の佇まいに幼さはない。
私の銀髪とは違う、華やかな金の髪は風に揺れ、青い瞳は感情の揺れもなく静かな湖面のように澄んでいる。
堂々としていて、そこには強がりの虚勢もない。己の芯で立っている、そう思わせる迫力がそこにはあった。
『あら。本当ね。でも、あなた……そのドレス似合ってないわね』
ザワリと不安そうな声を上げたのは、私たちを取り囲んでいた子どもたちだった。
言葉だけ聞けば不躾な挑発のように聞こえるかもしれない。だけれど、決してそうではない。
彼女の表情には嘲りも、恥をかかせてやろうという悪意も無い。
どちらが【正】なのかを知っている者の目だった。
私の抱いていた矮小な感情は霧散した。
同じ色のドレスを着てしまったのは、彼女ではなく間違いなく私の方。
彼女こそがこの世界の主人公で、私は彼女を彩る背景だった。
圧倒的な存在感を浴びた私の世界は一変した。
彼女こそが世界の中心に立っている、と確信したのだ。
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「──これがマデリン様と私の出会いです。きっと私のことなんて覚えていないでしょうけれど、私の方はあの鮮烈な出会いは一時も忘れたことはありません」
これでいいですか?
そう説明を締めくくったのだが、アルフレッド殿下の目から光が消えていた。なぜ。
「そうか、あの日から様子が変わったのはマデリンが絡んでたか。ドレスが似合わない? はあ? ナタリアの儚い雰囲気に明るい色味はもう妖精さんだろうが。お願いだから膝丈ドレスをもう一度着てくれないか。クソッ、あの原色至上主義の派手好きが。赤、黒、紫ばかり着るから繊細な色味を認知できないのか? 不遜な物言いは矯正させたはずだけど改めて釘を刺しておくべきか?」
「滑舌が良いですね」
なんだかとても早口で呪詛を吐いているが、文字が小さくて読めない。
アルフレッド殿下は器用なのだな。




