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【連載版】脇役令嬢日記~私のことよりメインストーリーを進めてください!~  作者: コーヒー牛乳


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2


「だ、だめです!」

「・・・・・・ダメ?」


 だめに決まっているでしょうが! イノチ、ダイジ! 

 それに素敵なコートなのでシワになってはもったいない。


 袖をほどき、いそいそと袖に手を通せば、これでいい。

 着てしまえば肩から落ちないだろう。

 少し、いや、かなり大きいけれど着れないことはない。


 着てみて気付いたが、殿下の黒いコートには銀の縁取りがほどこされていて、胸には金の飾りがついている。やはり王族の持ち物。近距離で見ても繊細な手仕事だ。

 

「これでどうですか?」

「す────」


 ナイスアイディアだと思ったのだが、アルフレッド殿下は固まってしまった。呼吸が止まってやいないか?

 まあ、絞め殺されないならいいのだ。


「──じ、実は犯人に心当たりがあります!」

「──なんだって。君自身が現場を目撃したのか?」


 観客はごっそりといなくなったが、ここで急展開。

 なんと男爵令嬢は犯人について何か知っているらしい。


 こんな陰湿なことをしたのは、いったい誰なのだろう。

 人間関係が希薄すぎて、全く何もピンと来ない。


 じらすようにタメる男爵令嬢に、今か今かと答えを待つ令息たち。そして物陰の私までつい前のめりになってしまう。


 ごくり。


「─────~~~~~っっ、ごくイイ」

「えっ、なんですか。静かにしてください」


 急にしゃべり始めたらびっくりするじゃないですか。


 しーっ、と指を口の前に持って行こうとしたが、袖が長すぎて指先が出ない。

 でろんでろんと袖を振っていると、アルフレッド殿下は大人しくなったので問題ない。

 ちょっと凝視されすぎて怖いが、まあ問題ない。


「──あ、いえ、実際に見たわけではなくて・・・・・・っ」

「──そうか。では、心当たりについては書類に候補をまとめてくれ」


 妙に緊張感のテンポがずれたのは、あちらもらしい。

 令息たちは興味を失ったような、事務的な顔に戻った。


「──えっ、でも」

「──今日はドレスや楽器の運搬で荷物検査を行っても結果は怪しい。ひとまず、あなたは準備を進めた方がいいだろう」


 てきぱきと撤収しようとする令息たちに対して、桃色の髪の男爵令嬢は衝撃を受けたような顔でひきつっている。


 まあ、わかりますよ。

 乙女の感覚で言えば冷たく事務的な対応に感じますよね。


 大丈夫? だとか、傷ついた私の心は放置で、準備を進めろって言われたらショックでしょうね・・・・・・


 と、乙女心がわかる私は同情的になっていたのだが。

 彼女の次の発言で、私の天秤はもう一方に傾くことになる。


「──マデリン様です! 私のドレスを切ったのは、彼女に間違いありません!」

「──マデリン・ベルフローレ嬢が?」


「は?」

「ナタリア、そんな低い声も出るの? かわいいねっ」


 地にめり込むほどの傾き具合である。同情心は全て消えた。


 当初よりも周囲を取り囲んでいた生徒の人数は減っているが、ここは音楽会会場の入場口付近である。ちらほら残っていた生徒もいれば、新たに通りかかった生徒もいる。


 その生徒たちが耳にしたのは、マデリン様の悪評。

 まさか、と囁くような声がどこからともなく広がっていく。

 マデリン様がそんなことをするはずがない。それは私が一番よく知っている。


「──彼女が・・・・・・でも、確証はないのだろう?」

「──でも、そうとしか考えられないのです! だって」


 男爵令嬢は、居合わせた周囲にも聞かせるように説明を重ねていく。

 以前からたびたびマデリン様に嫌がらせを受けていた経緯があり、この件だけは例外とは考えにくいと理論立てて。


 聞く者が聞けば、それは筋が通っているように聞こえてしまうのが不思議だ。


「違うのに・・・・・・」


 マデリン様はそんなことをしない。

 それを知っているのに、私はまだ物陰から出ることができなかった。


 大切な方のことを誤解されているというのに、私は小さく縮こまって独り言を呟いている。


 悔しくて悔しくて、喉が熱くなる。今にも飛び出して違うと叫びたいのに、足は震えて力が入らないのだ。

 そんな自分は嫌なのに。


「大丈夫? 震えてる」


 固まった背中が、ふわりとあたたかくなる。

 縮こまっていた肩も、腕も、全部が包み込まれたようにあたたかい。


「大丈夫だよ。ナタリアはそのままで」


 耳元で囁かれる声は、まるで子守歌のように優しい。

 今の私の弱さを肯定し、受け入れてくれる。

 弱い自分を否定ばかりしていたが、そのままでいいと言ってくれるのだ。


 はく、と口は音のない息を震えて出し、涙の膜が視界を塞ぐ。


「大丈夫、大丈夫。怖かったね。これから俺がいっぱい甘やかしてあげるから」

 

 優しく頭を撫でられ、耳に流し込まれる声は甘い。

 私をすっぽりと抱きしめる身体は確かに大きくて、力を抜いてもたれかかってもびくともしないだろう。


 戸惑う私の頬に添えられた手にやんわりと押され、視線を上げる。


「ね?」


 そう言って、私の顔を覗き込むアルフレッド殿下の顔は、とても幸福そうに笑んでいる。

 その天使のようなお顔に、一瞬だけコクリと頷きそうになり──


 手を徐々に接近してきていた殿下の顔の前に出す。

 余った袖がブオンと殿下の顔に当たったが、不可抗力です。


「いやいやいやいやいやいやいや。結構です」

「あ、正気になっちゃった」

「ずっと正気です」

「でも流されそうだったよね」


 そんなことを言い合っている間に、主役のお出ましだ。


「──わたくしが、何か?」


 立ち止まっていた生徒たちがずわりと動く。

 人だかりが左右に分かれてできた道の中央を歩くのが、マデリン様だ。

 本日のドレスは誰よりも美しく、決して華美ではないのに太陽よりも輝いている。


「──お前たち、何をしているんだ? そろそろ始まるぞ」


 そのマデリン様をエスコートしているのが、マデリン様の婚約者のエドワード殿下だ。


「お二人とも装いにお互いの色を取り入れているのね。羨ましい」

「んんんっ、あれ-? ナタリアのドレスの色、誰の色かなー?」


 アルフレッド殿下は顔面を叩かれたことは気にしていないのか、何やらモジモジ照れ始めた。よかった、怒ってなくて。なんとかなった。


 それにしても羨ましい。私もマデリン様の瞳の色のものを持ちたい。



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