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第三楽章 1

青い空。白い雲。

日増しに太陽は力をつけ、照りつける太陽光が攻撃的になってきた。もう真夏はすぐそこまで迫ってきている。


それはイコール、コンクールが近いということ。


音弥の楽譜を元に奏が計画を顧問に話すとトントン拍子にことは進んだ。


この学校は元々常勝志向の吹奏楽部ではない。目指せ金賞!のトゲトゲした雰囲気よりも、音楽の調和で子供たちを健やかに成長させたいと願う顧問は、何よりも今の雰囲気に心を痛めていた。


元は自分が編成したパート決めが原因とはいえ、そこはやはり楽器持ちの親御さんからの話を無下にはできない。

ずっと気にかけていた事が解決するならと、顧問から母親に連絡をとり話をしてくれた。

家でもなんとなく雰囲気の変わった娘を悟っていた母親からは、願ってもない事だと快諾を得た。


和音に顧問と母親がくるスケジュールも早々に決まったが、問題は絵茉本人があまり乗り気ではないという事だった。

ただでさえ先輩から目をつけられているのに、顧問からこれ以上特別扱いを受けたくないといった感情でもあるのかもしれない。

それでも母親も一緒だし、奏の尊敬する先輩が力をかしてくれるからと顧問から説得され、なんとか絵茉の同行も決まった。


当日は絵茉があまり緊張しすぎないようにと、ミニコンサートやサロンコンサートなどのイベントを手伝ってくれる女性バイトの海月を呼ぶ事にした。


彼女がいると店内の雰囲気はいつも一変する。

普段から静かで落ち着いた店内だが、彼女がいるとそこに柔らかさが加わる、そういった雰囲気を纏った子だ。


事情を説明すると店内に飾る小さくて控えめな花と黒猫の置物、少し綺麗めなカトラリーを用意してきてくれて、さすがの気配りだと音弥と奏を感心させた。


「領収書、後で出しますね」


にっこりと笑いながらそう言ってそれらを準備する海月を見ると、さすがだと二度目の感心に音弥と奏は顔を見合わせた。


店内は奏がオーダーしたコーヒーの香りが満ちてくる。流れるレコードはフルート巨匠のLP。


客人を迎え入れる準備は整った。


今日いきなり楽器を吹いてもらおうという訳ではない。

音弥も奏も、今日は一音楽人として絵茉と接するつもりだ。


そもそもこれは、絵茉が少しでも自信を持てるように、その手伝いをするためのプログラムを作っただけ。


「あー…アレルギーとか聞いといてもらえばよかったな」


ボソリと零した音弥の呟きに、奏は「ん?」と首を傾げる。


「いや、その位の年代の子ってパンケーキ好きだろ?アレルギーがないなら出してあげたいなって…」


どうやら音弥なりに気を使っているようだ。

そんな気遣いに奏はありがたさを感じつつ、いつもの定位置であるカウンターに腰を下ろした。


「準備しちゃっていいんじゃないですか?もし絵茉ちゃんが食べないなら俺が食べますよ」

「そんな事言って、奏が食べたいだけだろ?」

「あ、バレました?」


音弥はいつもの事だと笑うと、店の奥で掃除を進める海月からも「私もー」と声が聞こえた。

お前ら…と溜息を吐き出す音弥だったが、みんなで食べればいいかとパンケーキの準備を始める事にした。


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