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第一楽章 3

この女性の存在こそ、音弥の特殊能力の権化。


音弥は擬人化した楽器の姿を見る事ができる。


そしてそれは普段は音弥にしか見えないが、ある条件を満たすと他の人間にも見えるようになる。


音弥が色々試した結果、条件は以下の二つという事が今のところ分かっている。


条件その一。音弥の淹れたコーヒーを飲む。

条件その二。この店内空間の中でのみ。


まあその他にもあるにはあるのだが、音弥の意にそぐわず出てきた擬人化した楽器たちは、大抵この方法で奏にも姿を見る事ができるようになる。


突発的に現れたところを見ると、どうやら奏が連れてきた問題らしい。


「F、君は何か言いたいことがあるの?」


Fと呼びかけられた女性はコクリと一つ頷いた。


Fとは、フルートの化身を意味する略語で、音弥が名付けたものだ。


何故フルートだとわかるのか。

それは、擬人化する楽器たちには一定の法則がある事に気付いたからだ。


同じ楽器は世の中に五万とある。

だがどれも、その楽器自身の姿に違いは少ないが、その音色や楽器の持つ性質は違う。


この擬人化した楽器たちも、それらの楽器と同じ様に、音弥にとっては基本的な姿形は同じものなのだ。


それは楽器本来の姿のように基本は同じ容姿でどこかが違う。


基本的な顔の造りの印象は同じ。

髪の長さや色が違っていたり、多少の癖があったり。

性格も個々があるようで、同じ楽器でも大人しい物もいれば自己主張の強い物もいるらしい。


それはどうやらその楽器の持ち主に投影されるらしく、音弥はこれまで何度も楽器の声を聞き、音楽にまつわる話を解決してきた。


そしてその話の多くは、奏から持ち込まれることが多く、必然的に共有時間も長いから一緒に解決する事になる。


どうやら今回も、奏が持ち込んだフルート関連の話を二人で聞くことになりそうだ。


音弥はFの前にコーヒーを淹れたカップを置くと、奏にもおかわりを注いでやる。


Fはいつの間にか奏の隣の席まで移動をし、そこで静かにコーヒーを飲み始めた。


Fに多く見られる姿は、ロングヘアーで線の細い女性が多い。


このFはロングヘアーではあるが、豊かな黒髪は少し毛量が多く毛先に軽くウェーブの癖があるように見える。

そしてフルートの特徴的である線の細いボディラインをしている事が多いが、このFは少しふくよかだ。

そのせいもあって、穏やかな印象の顔つきをしていた。

だが眉が下がり、どことなく寂しい表情をしている。


「奏、この子の持ち主に覚えは?」


すでにFの姿が見えた奏は、音弥の問いかけに小さく頷いた。


作られた楽器本来の姿とは違い、このFは既に身体的特徴がある。


恐らく奏にもすぐに思い当たる人物が浮かんだのだろう。


奏もまた、Fと同じ様に寂しそうに目を細めた。


そしてFへと身体を向け、ゆっくりと唇を動かした。


「絵茉ちゃん、だね?」


そう尋ねると、Fが静かにコクリと頷く。


このFが現す楽器が誰の物だかわかれば話は早い。


音弥はその人物の説明を奏に求めた。

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