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第六楽章 4

自分一人のせいじゃないと、そんな言い訳をするつもりもない。

先輩や同級生の全部を代弁するわけでもない。


自分の言葉だけでも伝えなくちゃ。


佳那の胸の中の想いが、はっきりとした形になる。


佳那は「絵茉」ともう一度名前を呼びかけ、テーブルに両手を出した。

絵茉にも同じように欲しいと、右手で左の掌をポンポンと叩いてからまた広げた。


おずおずと、絵茉は緊張した面持ちでテーブルへと手を乗せると、先程の、演奏を前にした緊張とは別の緊張に襲われる。


だがそれはすぐに払拭された。


佳那の温かな手が絵茉の両手を包み込んだからだ。


「佳那、ちゃん?」


絵茉はぱちぱちと何度も瞬きをし、手元と佳那の顔を繰り返し見た。


言いたい。

言わなきゃ。


佳那の心が早鐘を鳴らす。


けれど唇が震えて上手く声にならない。


手を繋いでいる分、絵茉の指先に佳那の震えが伝わってくる。


いつも仲間に囲まれ、一年生なのにどんどん成長して、絵茉とはまるで別世界の住人だと思っていた佳那が震えている。


大丈夫だよと声をかければいいのだろうか。

でも自分なんかがそんな事を言うのは上から目線だと不快にさせてしまうのじゃないだろうか。


二人の想いがそれぞれの胸の中で葛藤する。


その時、FとCがそれぞれに動いた。


Fは絵茉の背後に立ち、Cは佳那の背後に。


そして二者とも少女の肩に手を置いている。


人間と違って体温はない。


けれど今、絵茉も佳那も温もりを感じている。

護られていると、そんな温かい気持ちに、少し心が解れた。


よし心の中で頷き、はあっと息を吐き出す。


「ありがとう」

「ごめんなさい」


二人が同時に声を発すと、また同時に「え?」と声を出した。互いに顔を見合わせると、思わずふふっと笑い出してしまう。


「絵茉、なんて言ったの?」

「佳那ちゃんこそ」


二度も重なった偶然がおかしかったのか、二人とも声をあげて笑った。


まだ店内のお客たちはクッキーに舌鼓を打っている。

少女たちのやりとりに軽く気にはしているが、最初と同じく自分たちの時間を過ごしているようだ。


少し緊張の時間が解れたその時、海月がティーポットとカップを二つ持ってやってきた。

「これ、音弥さんからのサービス。もう少ししたら再開するから、これで喉を潤したら戻っておいでって」


そう言ってカップを二人の前に置き、ポットの中身を注いだ。


フワリと華やかな香りが鼻腔をくすぐる。


「いい匂い」

「うん、何の香りだろ」


二人の顔にまた笑顔が浮かぶ。


「ジャスミンティーです。熱いから気をつけてね」


海月はサーブし終えるとキッチンへと戻って行った。


二人は海月に頭を下げると、カップを両手で包んでその香りを胸いっぱいに吸い込んだ。

ジャスミンティーの華やかで甘い香りに満たされていく。その香りに緊張は完全に解れ、ゆっくりと口元に運び一口を飲み込むと、その香りは一層深く広がった。



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