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第五楽章 1

いつもよりもほんの少し賑やかな店内。


日曜日の午後という事もあり賑わう店内は、常連の年配層でテーブル席がほぼ埋まっている。


「今日は婆さんも連れてきたんだ」

「孫みたいな子が頑張るから応援に行こうって言われてねぇ」


いつもは一人で来ている年配の客は奥さんを連れてきているようだ。

またある客は友人を連れてきているらしく、コーヒーの他に自分の好きな軽食を勧めている。


あちこちで今日は膝の具合がいいだのこの後何の映画を見に行きたいねだの、世間話が交わされている中、舞台裏では演奏の準備が着々と行われていた。


いつもよりもほんの少し来客の多い店内。

海月は常連客とお喋りをしながらオーダーをとったり、来店客の案内にと小走りで店内を奔走している。


音弥もオーダーに追われ、先程からドリッパーがフル回転して止まらない。


そんな店内の賑わいが裏にも伝わっているのか、それが伝播したようにバタバタとした空気に追われていた。


「絵茉ちゃん、もう少ししたらチューニングしようね」

「は、はい」

「お母さんは手の運動しときましょう」

「は、はい」


着替えも済ませた奏がそう声をかけると、親子して同じ反応が返ってきた事に思わず笑ってしまう。


「そんなに緊張しないで。今日来てくれてるのは優しいおじいちゃんおばあちゃんが多いから」


ね?と優しく告げる。


和音の客層は奏も熟知している。


最早奏もファミリーの扱いで、音弥の祖父からは厳しい評価を受ける事もしばしばある。

けれどそれでも最後には「でも、よかったよ」と言ってくれる優しさに、何度も胸を熱くした。


他の客たちもそうだ。「奏ちゃん」などと呼んでくれるおばあちゃんもいれば、ここで奏を知り、いつの間にかファンになったという主婦もいる。


夜に開催するサロンコンサートの時は少し格式高くもなるが、昼間行われる今日のようなコンサートの時は、割と町内会のイベントの雰囲気だ。


今日の奏の衣装もそうだ。

サロンコンサートの時はタキシードやジャケットを着る事が多いが、今日はスタンドカラーの淡いグリーンのシャツに色の濃いワイドパンツを合わせたカジュアルな装い。

絵茉のお母さんにもドレスではなく少しお洒落めな私服でとお願いをしたところ、薄いオレンジ色の小花プリントのロング丈ワンピースを着てきてくれた。

そして今日の主役の絵茉は、学校の制服だ。


吹奏楽部の演奏の時は、制服とは違った衣装が用意されている。

少し細身の黒のパンツとベスト。

それに指定のブラウスとは違う、白のワイシャツが衣装になっている。


絵茉も入部してから、施設への慰問演奏や市内の音楽祭で演奏するために何度か袖を通した事がある。


だが今日は違う。


絵茉のための演奏会だ。


顧問は衣装を着てもいいよと言ってくれたが、今日は自分だけだからと、敢えて制服を選んだのは絵茉自身だった。


楽器を構えた時の腕周りや背中の張りがいつもと違う。

ワイシャツの時よりも柔らかい布だが、着心地に慣れている分気分が違う。

否が応でも緊張が高まりを感じてしまう。


それを悟ったのか、母親の方が思い切り大きな溜息を吐き出した。


「お母さん?大丈夫ですか?」


それまでは絵茉の様子を気にしていた奏が、慌てて母親の傍に駆け寄った。


「あぁ、ごめんなさい。私、今までこんな経験ないものだからつい。でも絵茉は何度も頑張ってたのよね。幼稚園の時のピアノの発表会やフルートの演奏、何回も頑張って偉かったね」

「お母さん…でも私は…」


過去の思い出が絵茉の中で巡る。

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