第四楽章 3
そんな事を考えていると、奏がポテサラサンドをすべて平らげ、ご馳走様でしたと声をかけてきたので、あぁと返した。
「ところで…」
空腹が満たされ満足そうな奏は、コーヒーを口にしてから音弥の方を向く。
「今回は絵茉ちゃんたちの演奏だけですか?」
それは音弥も考えていた事だ。
恐らく今回足を運んでくれる客の多くは、演奏自体よりも中学生が奏でる一生懸命な姿を楽しんでくれるはず。
元より、この店は上質な音楽と味わい深いコーヒーを提供したいという祖父の道楽から始まっている。
客層は老若男女問わず。
コーヒーを飲みながら傍らに流れる音楽を楽しみつつお喋りに花を咲かせる年配層やマダムたち。
営業周りの時間潰しに立寄るサラリーマンやら、ここを勉強場所に選ぶ大学生や高校生もいる。
祖父母に連れられた小さな子は、アイスクリームやプリンを楽しんでいるし、むしろ一番縁遠い客層は、絵茉たちの年代ではないだろうか。
それでも常連客たちは、いつものコンサートを知っている。
絵茉の演奏を発表会と捉えて聞いてはくれるだろうが、物足りなさを感じてしまうかもしれない。
「俺とお前で何か吹くか」
音弥は考えた末にそう奏に提案すると、奏も二つ返事で頷いた。
「やりたいです」
返答しながら嬉しそうに口許を綻ばせてから、あ!と声をあげたので、音弥は首を傾げた。
「曲、俺が選んでいいですか?」
「別にいいよ。何かやりたいのある?」
「はい。といってもこれから探してみるから具体的には…実は…」
そう言って奏が話し始めたのは、絵茉が好きらしいアニメ映画の話だ。
その作品はアニメーションとはいえ世界でも評価されている監督の作品で、現代アニメには疎い音弥でも知っている作品だった。
使われている音楽は世界的にも名高い日本を代表する作曲家によるもので、近年では吹奏楽アレンジされた作品がコンクールでも演奏されている程の人気だ。
好きな作品の曲ならば、頑張った絵茉へのプレゼントにもなるねと、音弥も快諾した。
「じゃあその作品にしようか。曲は奏に任せるよ。必要ならアレンジもするから早めに言って」
「やった。じゃあ何曲かのメドレーもできますね」
「おい…仕事増やすなよ」
そう毒づきつつも眉間に皺が寄っているわけでもなく、口元は穏やかだ。
とはいえそのアニメーション作品は人気の物がいくつもある上、一つの映画の中でも使われている曲は沢山ある。
膨大な曲数の中から選ぶだけでも手間がかかるが、如何せんオーボエデュオに演奏できる曲は限られているのですぐに決まるだろう。
まずは今夜レッスンにくる絵茉と母親のために軽食を用意しようかと、音弥は立ち上がって冷蔵庫とにらめっこを始めた。
奏も早速動画サイトや楽譜会社のサイトを眺め、二人で演奏できる曲を選別し始める。
「あ、この曲いいかも。ねえ、音弥さん」
「この前がパンケーキだからフルーツサンドでいいか」
「音弥さん、聞いて。この曲どうです?」
「いや、でも部活後だし塩気のある方がいいかな」
「音弥さーん」
「うるさい」
こうして慌ただしく夏の日はすぎ、瞬く間に和音でのコンサートの日がやって来た。




