第四楽章 1
あの小さな演奏会から数日後、奏は中間報告がてら和音を訪れていた。
注文したのはいつものブレンドコーヒー。
それに今日はポテサラサンドもオーダーした。
このポテサラサンド、実はかなりのレア品。というのも、レギュラーメニューではないからだ。
ポテトサラダは音弥の特製。
割と手間がかかるので気が向いた時にしか作る事がない。それでもメニューにあがるのは、音弥が食べたいと奮起した時に鍋いっぱいにジャガイモを茹でて作るから。
大量に作られるポテサラは、到底家族で食べ切れる量ではない。
なのでその時は、店のメニューにも出てくるというわけだ。
茹でたジャガイモを熱々のうちにある程度の粒が残る大きさで潰し、そこに人参とリンゴを混ぜる。
普通ならばキュウリも加えたいところだが、如何せん、奏はキュウリが苦手だ。
以前キュウリは抜いて欲しいと言われてから、音弥の作るポテトサラダにはキュウリが入らない。
なのでサンドウィッチにポテトサラダと薄切りのキュウリを一緒に挟むのが和音風ポテサラサンドだ。
奏のオーダーには当然ながらキュウリを挟まない。
そんな奏の拘りの詰まったポテサラサンドを音弥は手際よく仕上げ、コーヒーと一緒に提供すると奏は上機嫌でいただきますと手を合わせた。
「で?」
サンドウィッチにかぶりつく奏に尋ねかけながら音弥は、自分用のカップにコーヒーを淹れてキッチンから出てきてカウンターに腰を下ろす。
「あぁ、まだ俺も実際に音は聞いてないんですけど、お母さんと二人で頑張ってるみたいですよ」
「二人三脚、いい効果が出てるみたいだな」
「ですね」
二人は口元に笑みを称えてコーヒーで乾杯のようにカップ同士をカチンと合わせた。
というのもあの日、ピアノ伴奏は顧問の先生にお願いしようと楽譜を渡した時、絵茉の母親がその役割を買って出てくれたのだ。
なんでも絵茉が今よりも小さな子供だった頃、一緒に練習をしていたんだそうだ。当の絵茉本人は覚えておらず、大層驚いた顔をしていたが、母親は一緒に頑張ろうねと優しい笑顔で残りのパンケーキを一気に平らげていた。
絵茉もお母さんと一緒ならとまだ不安は残る心境ではあったが、頷いてくれた。勿論ミニコンサートの日まで奏を中心に音弥もサポートをすると約束した。
それでも後日談はあり、なんでも、母親は絵茉の塾の時間に合わせて顧問の先生からレッスンを受けているという。
娘が頑張るならば自分も何か出来ることがないかと申し出てくれた母親に、顧問も力を貸してくれるという。
なんともありがたいサポートの数々に、絵茉も人知れず奮起しているのは間違いない。




