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第三楽章 5

「パンケーキってさ…」


音弥はそう言いながらフォークを一つとると、奏の皿から一切れのパンケーキを刺して自分の口へと運んだ。

不満そうな奏の頭をポンと叩きながら咀嚼すると、コーヒーで口を整えてから言葉を続ける。


「みんな最初は同じなのに、トッピングでこんなに変わる。見た目も違うし味も違う」


何が言いたいのだろうと、絵茉だけでなく他の一同も音弥の言葉に耳を傾けながら一旦手を止めた。


「楽器や曲も同じだよね。同じオーボエでも、俺と奏の音色は違う。曲なんてもっと感じるよ。例えば大昔にモーツァルトが作った曲。もう何百回、何千回と演奏されてる。でも指揮者の数だけ解釈があるんだ。同じような解釈だとしても、それこそ演奏者が変われば色が変わる。正解なんてどこにもない。勿論自分の解釈と違えば反発は起こるし、反論もされる。でもそれも自由なんだよ。自分がやりたいことをやって批判をされる。大いに結構。自分が表現したい事をしたんだ。むしろ誇るべきだと俺は思うよ」


そうだよなと奏の肩に手を置くと、奏も音弥が何を言わんとしたいかがようやく分かってきた。


音弥は不意に、ちょっとまっててとキッチンへと戻る。


絵茉は僅かに俯いたままだったが、視線はトッピングの乗ったトレーに向いているようだ。


「お待たせ」


戻ってきた音弥は、新たなトレーを持っている。


そこには先程のトレーにはなかったバナナとオレンジが乗っていた。


それを絵茉の前へと差し出し、笑顔を向ける。


「絵茉ちゃんさえよければ、だけど、チョコに合うフルーツを用意してみた。どうぞ」


成程、バナナもオレンジも、チョコレートソースとの相性は抜群だ。


ゆっくりと絵茉の手がトレーの上のトングを握り、バナナとオレンジをそれぞれ一つずつパンケーキの皿へと乗せる。

そしてトングとフォークを持ち替え、ゆっくりとチョコレートソースのかかったパンケーキとバナナを一緒に口へと運んだ。


その様子を一同が固唾を飲んで見守る。

絵茉の喉が上下するのと同時に奏は唾を飲み込んで同じく喉を動かした。


「どう?」


様子を伺いながら尋ねたのは顧問で、絵茉はまず音弥に視線を向けてゆっくり、小さく頷いた。

それから顧問に視線を向け、満面の笑みを浮かべる。


「美味しい…」


その笑顔を見たのが恐らく久しぶりだったのだろう。絵

茉の横で母親が小さく鼻をすすり、顧問の瞳にも薄く涙が浮かんでいた。


「美味しいよね!ね!私もバナナもらっちゃおうかな」


顧問は泣き顔を隠すために無理やりに笑い、絵茉の前に置かれたトレーにまで手を伸ばした。

もらおうかなと伺いを立てつつすぐにフォークでオレンジを掬うあたり、絵茉に見られた変化が嬉しかったのだろう。


「じゃあ私はイチゴ欲しい」


それを真似してテーブル中央のトレーに手を伸ばした絵茉は、顧問と同じようにフォークでイチゴを直取りする。

それを見て母親が「行儀が悪い」と咎めるも、どこか嬉しそうに見えた。


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