静止画の手触り
木理が剥き出しなログハウスの上階。
窓から見える風景から、二階か三階だと思う。
その茶色い窓枠のそばに等身大の人形が置いてあった。どこか中世を連想させる部屋の中にしては服や髪に手入れが行き届いた様子が見て取れる。
小さな窓。その向こう側は青空と別の白い建物、太陽を反射した緑が映っていた。
木製の簡素な1人用ロッキンチェアに座っている人形。部屋の中は茶色で埋め尽くされており、その人形と窓枠を額縁とした借景が茶色の背景に対して浮き上がっている。
そんな「静止画」の世界。
たったひとりの「動的存在」、「誰か」が椅子に座っている人形を大切そうに抱きしめていた。
誰が見ても、酷く幸せそうだとか形容できないぐらいに、優しさに溢れている。
抱きしめられていた人形は、よく見れば西洋人形ではなく、市松人形のような容姿だった。茶色の目に黒い髪、黄色いワンピース。
「誰か」は職人とかそんな感じだろうか。ぱっと見は老人と言って差し支えない。背はそこまで高くはなさそう。一方で、胸板は厚く、腕は太く頑丈そうに見える。だが、人形を抱きしめている腕は優しい。
その「誰か」はずっと、人形に何かを話しかけていた。けど、人形は動かない。目を閉じたまま、なされるがまま。さらし木綿の開襟シャツに作業ズボンのラフな格好の「誰か」と「2人」で静かな時間を過ごしていた。
その「静止画」の世界で風が強く吹いた。
世界が壊れた。書割が後ろに倒れて、茶色い部屋の中から白と青でできた展望台になる。白い展望台に一面の青い空。
突然、鮮やかな、彩り豊かな世界に視界が切り替わる。
動かない人形の服は、白いウェディングドレスみたいになっていた。相変わらず「誰か」はその人形を抱きしめている。
展望台には多くの人がいた。いろいろな人が展望台の端から外を見ているのに誰かは絶対に展望台の端には近づこうとせずにずっと、人形を抱きしめて何かを話しかけていた。
じっと静止している「誰か」に様々な人が誰かにぶつかる。だけど「誰か」は人形を抱きしめたまま、他の人の目に触れるのが嫌であるかのように人形を抱きすくめたまま動かない。
しかし、室内から急に外に出たのだ。
おそらく太陽が眩しかったのだろう。
少し経って「誰か」は右腕を人形から外し、そのまま目の上に当てて、空を見上げた。
それが「誰か」にとっての「転換点」
突風が足元から突き上がって「誰か」はよろけた。左腕に人形を抱いたまま。
そのまま、風によろけた他の人が「誰か」に当たった。「誰か」は体勢を崩して、人形はかろうじて左腕で「捕まえているだけになった」。
展望台は人が多い。
さらに他の人にぶつかって、人形が左腕から外れた。
人形は先程から続いている風に巻かれ、展望台の外へ飛び出そうとしている。
「誰か」は必死になって人形に向かう。
だが、そのすぐそばで「誰か」を呼ぶ声がした。
「誰か」を呼び止めた人が「誰か」の肩を掴んでいた間に、人形は展望台から落下した。
6月29日




