無慈悲な幸せ
パックで覆われていた目元のシートが取り払われた。明かりが差し込み瞼の下の視界がオレンジ色に染まる。
目を開く。映った天井をぼんやりと見つめる。
自分が捕らわれていたかったものが、離れて落ちた。
きっと、部屋を上から見たら俺に繋がれていたチューブが外されて、床に散らばっている。
気持ちは酷く凪いでいた。しばらく動きたくなかったが時間である。退出を促される。
鏡の中の俺は、このたかだか2ヶ月で平均まで体重が落ちたからか、余計にモブキャラ感が増している。ただでさえ、特徴のない姿の鏡の中の俺は笑う。
自分が特別でありたかっただけだと、口角が吊り上がった笑顔で囁く
To this great stage of fools.
着替えて、用意された温かいお茶を飲みながら、最期の買い物。約束通りに日焼け止めを買った。
そんなやりとり中に、いつもはバックヤードにいるお姉さんたちまで、俺に「ありがとう」を言いに来てくれた。
別に何かした訳ではない。
皆様に、ってラスク渡す程度の一般常識を守っただけだ。
だから、涙腺緩みすぎて、泣いてしまうからやめてほしい。
これだから歳は取りたくない。
いつものお姉さんからは、なんと豪華なプレゼント。
Things growing are not ripe untill season.
いつなら「機が熟す」のか。
また、こうしていなくなるのに。
頂いたのは俺が買おうか、迷っていたボディローション。
これ、ラスクじゃ釣り合わないよ、お姉さん。精一杯の笑顔を作って、皆様とお別れの挨拶をした。
このお店は2階にある。
だから、いつも店前でいいと言っていた。わざわざ降りてくる必要はない。俺は無駄が嫌いだ。
なのに、今日は下まで来てくれた。
最期の挨拶。
思わず、お姉さんを抱きしめてしまう。涙が止まらない。
ありがとう。2年間、ずっと応援してくれて。
あんまり買わない顧客でしかなかったのに。
ごめんなさい。いなくなる選択肢を選んで。
嘆いても、止まらない。ただ、あると思っていた、純粋に信じていたいと願った愛情や友情を一方的に裏切った。
だから、こうして、ただひとり残された。
自分勝手に生きてきた。
無理矢理、笑う。片側しか上がらない口角。
言葉が出ない。こんな時こそ、言葉が出て来いよ!!なんで、涙しか出ないんだよ!!
笑えない。心から笑ってない。
お姉さんは抱きしめ返してくれて、一言だけくれた。
「頑張れ、負けるな」
次は負けない。頑張る。
何度も頷き、精一杯の感謝を込めて、頭を下げた。
苦い、苦い。
自分が選んだ選択肢。その責任も、また自分にしか返らない。だけど苦いんだ。嘆いても、止まらない。
ただひとり残されただけ。
変わることから、目を背けた「罪」。
Methinks I see these things with parted eye, When every thing seems double.
何もない「機械人形」。
だけど「どっかの誰かだった」自分。




